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Progmatスキームによる不動産STOのB/S遷移と評価額の考え方

1. はじめに

こんにちは、SRC運営事務局です。

前回の記事では、不動産STOを前提とした受益証券発行信託に求められる会計基準や、法人税法、所得税法、消費税法といった各種税法上の取扱いについてまとめました。

具体的には、Progmatスキームによる不動産STOは多数の投資家を対象とした第一項有価証券の公募を想定していることから、会計上の取扱いとして一般に公正妥当と認められる企業会計基準に基づく必要性があること等を説明しました。また、税務上の取扱いとして、ファンド構造の基本的な要件である導管性要件等を充足させるために必要な実務上の留意点についても言及しました。

今回の記事では、Progmatスキームによる不動産STOについて、STOの裏付資産となる不動産の購入から、STの償還までを以下の5つのフェーズに分け、それぞれのB/Sと評価額の考え方にフォーカスして説明します。

(1)委託者兼当初受益者(以下、委託者)による不動産購入
(2)委託者による不動産管理処分信託(以下、川上信託)設定
(3)委託者による受益証券発行信託(以下、川下信託)設定
(4)委託者の川下信託受益権資金化・委託者の債務清算
(5)川下信託による川上信託受益権の資金化・川下信託の債務清算(STの償還)

Progmatスキームによる不動産STOプロジェクトにおける利益の考え方や、その決定要因を把握するための一助となれば幸いです。このスキームについての基本的な内容は過去の記事(Progmat想定スキーム#2:Progmat利用時の取引当事者間の処理フロー概要)でも説明していますので、併せてご参照ください。

2. 各フェーズのB/Sと評価額の考え方

(1)委託者による不動産購入

最初に、STOの裏付資産となる不動産をマーケットや、アレンジャーのグループ内で調達し、委託者となるブリッジファンドに保有させます。SPCは合同会社に限定される訳ではありませんが、本記事ではGK-TKスキームの活用および匿名組合出資・ローンによる資金調達を前提として説明します。

このときの不動産の評価額(委託者の帳簿価格)は、購入代価と付随費用からなる取得原価であり、不動産価格の他、不動産取引に係る仲介手数料や、不動産取得税、登録免許税等、不動産の取得に付随した支出を含めた金額となります。

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(2)委託者による川上信託設定

信託銀行等との川上信託契約により、現物不動産を信託受益権化します。理論上は現物不動産のままでも川下信託の信託財産とすることは可能ですが、Progmatスキームによる不動産STOでは、ファンド運営事務上のメリットや流通コスト低減を主な理由とし、川下信託の信託財産は不動産信託受益権とすることを基本スキームとしています。名義としては川上信託の受託者が不動産の所有者となるため、テナントとの賃貸借契約や、プロパティマネージャーとのPM契約は、委託者から受託者が承継することとなります。川上信託の受託者が弊社であれば、ファンド運営にて円滑に手続きを進められるというメリットがありますが、必須条件ではありません。

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(3)委託者による川下信託設定

川上信託受益権を信託財産として、委託者と川下信託受託者との間で川下信託の設定を行います。川下信託受託者は川上信託受益権の受益者となり、委託者に対して、川下信託の受益権を発行します。全てエクイティ性の受益権とすることも可能ですが、本記事では川下信託設定時にローンを実行する前提で説明します。川下信託の受益権は、信託契約に定めることにより、リスク・リターンを調整した複数の種類の受益権に分けることができ、優先・劣後構造の採用が可能です。また、Progmatスキームによる不動産STOでは、ファンド運用負担の軽減・スキーム構造の簡略化を目的とし、信託契約の定めにより、受益者代理人を設定するスキームとなっており、この受益者代理人も、川下信託契約の当事者となります。

川下信託設定時に、川上信託受益権の元本設定を行うことになり、平成19年に信託協会から公表されている「受益証券発行信託計算規則」に基づいた価額で設定されます。信託財産が不動産や不動産信託受益権の場合については、同規則第25条第2項第4号で規定されている以下の価額で設定されることとなります(ただし当該価額が時価と著しく乖離するときは、当該時価)。

①弁護士、弁護士法人、公認会計士(外国公認会計士(公認会計士法(昭和23年法律第103号)第16条の2第5項に規定する外国公認会計士をいう)を含む)、監査法人、税理士又は税理士法人の証明ある価額(信託財産が不動産である場合にあっては、当該証明に加えて不動産鑑定士の鑑定評価を要する)
②相続税法財産評価基本通達に定める評価方法に従って算出される価額
③委託者の直近の貸借対照表上の帳簿価額

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(4)委託者の川下信託受益権資金化・委託者の債務清算

川下信託の設定により委託者が有するローン受益権とエクイティ受益権を資金化し、委託者のローン返済、TK出資の償還が可能な状態にします。

ローン受益権は、川下信託に対して実行されるローン(以下、委託者を対象としたローンを「ローン(A)」、川下信託を対象としたローンを「ローン(B)」という)を原資として、川下信託設定と同日に償還されます。この時のローン受益権の償還額は、川下信託契約で定めたローン受益権価額となります。委託者の借方のローン受益権は現金となり、川下信託の貸方のローン受益権はローン(B)となります。

エクイティ受益権は、投資家への小口販売を前提に、証券会社が引受けることで資金化されます。このエクイティ受益権はProgmatシステムで管理され流通するSTであり、Progmatシステムへの取引内容の記録が、すなわち対抗要件を備えた正式な権利移転となります。委託者から見たエクイティ受益権の評価額は、ローン受益権同様、川上信託受益権の元本設定額を踏まえて、川下信託契約上で設定されるエクイティ受益権価額となりますが、証券会社による引受金額は、別の方法で算出されます。

証券会社が引受後に販売する投資家が期待する利回りを見積り、裏付資産である不動産の収入から各種運用に係るコストを控除した純収益を基に販売可能な金額を査定し、ここから証券会社が収受する引受手数料を控除した水準で引受けることになります。このことから、証券会社が引受可能とする水準が、委託者サイドに生じる利益の決定要素の1つとなります。

例として、証券会社が“鑑定評価額(①)から引受手数料(②)を控除した水準”でしか引き受けられない場合(投資家需要に基づくアップサイドのプライシングが困難な場合)、証券会社に譲渡する委託者兼当初受益者の帳簿価格(③)が、鑑定評価額(①)と同額の場合(③=①)は、差額である引受手数料(②)の分、当初受益者には差損((①-②)-③<0)が生じることになります。引受価額のプライシング方法が上記のとおりあくまで鑑定評価額(①)に基づく場合には、委託者兼当初受益者の帳簿価格(③)と参照すべき鑑定評価額(①)に乖離がある場合(③<①)のみ、当初受益者に差益が生じることとなりますが、証券会社や会計士を交えた具体的な検討が必要となります。

委託者はローン受益権の償還金とエクイティ受益権の引受代金により、ローン(A)の返済とTK出資の償還が可能となります。証券会社が引受けるエクイティ受益権は、STとして投資家に販売され、ファンドは運用期間に入ります。

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(5)川下信託による川上信託受益権の資金化・川下信託の債務清算(STの償還)

運用期間終了時に、川下信託の信託財産である川上信託受益権を売却し、資金化します。これを原資としたローン返済・エクイティ受益権償還により、川下信託の清算が行われます。

川上信託受益権の売却先は、スポンサーやそのグループ企業となるケースや、外部の投資家となるケースがあります。この時の売却価格は、売却時のマーケットにおいて別途、売却先との間で合意する水準となり、STを保有する投資家に対する償還時の配当額に影響します。

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3. まとめ

上記のとおり、Progmatスキームを活用した不動産STOを5つのフェーズに分け、それぞれのB/Sと資産評価のポイントについて説明し、証券会社が裏付資産の収益性や投資家の投資判断基準等に照らし検討する引受金額が、委託者にとっての利益を決定する大きな要素となることに触れました。2021年6月現在、日本国内にて金融商品取引法に準拠した不動産STOの実績はまだありませんが、今後の不動産STOの販売実績が積みあがることで、各証券会社の不動産プライシング方法がそれぞれ成熟化し、独自の目線に基づく鑑定評価以外の方法(投資家需要に基づくプライシング等)が採用される可能性があり、委託者サイドから見てもより有益なスキームと評価されることが期待できます。

また、STの償還時に川上信託受益権は外部への売却によって資金化され、その価格は売却時のマーケットにおいて別途、売却先との間で合意する水準ということを説明し、この売却金額が、STを保有する投資家への償還時の配当に影響する点についても触れました。

具体的な実務検証及び皆さまへの情報還元を継続し、皆さまのご検討の一助となればと考えております。個別のご質問やご相談事項がございましたら、共同検討をはじめとしたさまざまな枠組みがありますので、SRC事務局までお問合せください。

引き続き、SRC及びProgmatをよろしくお願いいたします。

ご留意事項

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