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セキュリティトークンのセカンダリマーケットの発展

1. はじめに

こんにちは、SRC運営事務局です。
前回までの記事では、2021年8月11日に実行されたProgmatスキームを活用した本邦初の公募型不動産STO(以下、本PJ)について2回に分けて説明記事を発信しました。

本PJにおける主要な協業企業様は、大手不動産運用会社のケネディクス様、証券会社の野村證券様、SBI証券様の3社であり、各社様が担う業務や、STO実行までに対応いただいた事項等について触れました。また、本PJのセカンダリ取引は、「相対取引(金商業者による買取)」により行われるものであり、一定の場合を除き、基本的に投資家は毎営業日譲渡の申し込みが可能であるものの、日次よりも更に高頻度で売買するためのセカンダリ取引を目指すのであれば、PTSの活用等、更なる高度化の余地があることを説明しました。

さて、弊社では本PJの実行後、2021年10月6日にST研究コンソーシアム(以下、SRC)のワーキング・グループ(以下、WG)における検討結果報告書及び「デジタル証券PTSに関する提言」を公表いたしました(詳細は弊社プレスリリース(「ST研究コンソーシアム」における 検討結果 報告書及び「デジタル証券PTSに関する提言」の公表 について)をご参照ください)。検討結果報告書は「セカンダリWG」「DLT(ブロックチェーンを含む分散型台帳技術(Distributed Ledger Technology)の略称)拡張WG」の2つのWGにおける報告書です。「デジタル証券PTSに関する提言」は、セカンダリ取引の場である「デジタル証券PTS」の定義・基準を、海外含めた既存の取引所とPTSの区分・基準を参考として整理し、併せて整理が必要な移行措置・行為規制についても整理した内容を含む各種提言となっています。

今回の記事では、「デジタル証券PTSに関する提言」の前提となっている「セカンダリWG」の検討結果報告書記載の内容を具体的な業務フローの内容と併せて説明します。

2. セカンダリ取引の在り方

SRCでは、STの流通市場について、大きく4つのSTEPに分けて拡張を目指しています。STEP1ではデジタル証券PTS連携、STEP2ではCBDC等のプログラマブルマネー(以下、PM)とのDVP決済実現、STEP3では流動性補完機能具備、STEP4で最終的にP2P取引実現とし、外部環境の充足と合わせて段階的な深化を予定しています。

これら4つのステップで目指す「セカンダリ取引の在り方」を説明する要素として、下表の通り各要素の内容をまとめています。この表をもとに、各要素の概要について見ていきましょう。

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(1)前提ST商品

現状、Progmatでの発行・流通が実現しているのは、受益証券発行信託を活用した受益証券型STですが、セカンダリ取引の前提となるST商品として、「社債」、「株式」、「投資信託の信託受益権」「電子記録移転権利(以下、電権)」を加えています。電権には、例えば集団投資スキーム持分や受益証券発行信託以外の信託の受益権等のSTが該当します。なお、上場有価証券のトークン化ニーズは現時点では想定されていないことから、非上場有価証券を想定したものとなります。前提ST商品の範囲を広げるにあたり、個別に価格決定方式や対抗要件の具備に関する論点について対応していく必要がありますが、対象とするST領域は極力幅広い方が望ましいという考えからこのようにスコープを整理しています。

(2)セカンダリ取引類型

セカンダリ取引の類型としては「①相対取引(金商業者による買取)」、「②金商業者内マッチング」、「③金商業者間マッチング」、「④PTS」、「⑤投資家間直接売買」といったものが考えられます。PTSとは、「Proprietary Trading System」の略称であり、私設取引システムを指します。これは東京証券取引所等、金融商品取引所を経由しない取引の仕組みであり、証券取引所の代替市場としての役割を担うものです。実現させるべきセカンダリ取引の類型としては、①から④までの方式を組み合わせたものを想定しつつ、STEP4としては、金商業者が介在しないP2P取引の確立・併存まで展望しています。

SBIホールディングスと三井住友フィナンシャルグループによって共同設立された「大阪デジタルエクスチェンジ株式会社」(以下、ODX)が、STの流通を視野に入れた新たなPTSを、2022年春を目途に(STの取扱いは2023年以降)運営することが報じられており、前述したSTEP1としての「デジタル証券PTS連携」の具体的な取組として、ODX様との連携を2023年度から実現することを目指します。

(3)売買価格決定方式

売買価格決定方式としては「①市場価格売買方式」、「②顧客間交渉方式」、「③顧客注文対当方式」、「④売買気配提示方式」、「⑤競売買方式」といった選択肢がある中で、少なくとも③④、目指す姿としては高度な価格形成を有する⑤としています。

現状、PTSはあくまで「代替市場」としての位置付けのため、高度な価格形成を有する「競売買方式」を採用する場合、金商法の規定により、PTSで取り扱うことのできる取引金額に上限が課されます。この取引金額の上限は、全ての取引所金融商品市場及び店頭売買有価証券市場における総取引金額に対する割合を設定する形で定められています。デジタル証券は全て非上場有価証券を想定しているため、取引金額上限規定を踏まえて比較すべき上場市場がないことから、デジタル証券を対象としたPTSで競売買方式を採用できるか否かは、現行法制上不明確であるという課題がありました。

そこで今回の提言の中では、デジタル証券のPTSにおいて競売買方式を採用できることを金融商品取引法施行令1条の10の改正により明確化すると共に、デジタル証券全体のシステミックリスクが既存の上場市場と比べて相対的に小さいうちは取引金額に依らず取引所金融市場には該当しない旨を、監督指針Ⅳ‐4-2-1①の改正又はパブリックコメントの回答等の手段で明確化することを提案しています。SRC事務局では、本提言の公表に先立ち、金融庁の所管ライン(市場課及び証券課の課長以下)に直接説明を実施し、記載内容に違和感がない旨と、今後の整備に向けた個別協議を継続する旨を既に確認済みです。

また、売買の注文の指値が売買当事者間で一致する場合にその指値で取引を成立させる「③顧客注文対当方式」よりも、「価格優先の原則」、「時間優先の原則」に基づいて約定する「⑤競売買方式」を採用する場合の方が、より厳格な投資家保護を図る必要があり、自主規制団体やデジタル証券PTSとしてのODXによる投資家保護のルール整備についても、SRCとして協働していきます。

(4)決済方式

決済方式を検討するためには、資金決済と証券決済に分けて考える必要がありますが、証券決済はProgmatへの記録により実行されるため、ここでは主に資金決済の方式について触れます。既存システム(全銀ネット+日銀ネット)を利用するか、CBDC(Central Bank Digital Currency、中央銀行デジタル通貨)を利用するか、その場合はホールセール型か一般利用型かという選択肢があります。

実現させるべきセカンダリ取引の類型として、まずはホールセール型のPMを想定していますが、中長期的には一般利用型のPMの活用を視野に入れています。但し、PMについては、現状確立されたものはなく、また、数年後の姿の予測が難しいことから、今後の実証実験・開発動向を見ながら、資金決済の連携対象を検討する必要があります。

証券決済と資金決済の関係はRTGSを想定しています。これは「Real Time Gross Settlement」の略称であり、「即時グロス決済」を意味します。既存の決済システムで主に利用されているDTNS(Designated Time Net Settlement、時点ネット決済)では、決済の時点を予め決め、複数の資金の決済、証券の決済をネッティングの上実施しますが、RTGSでは、約定の都度、個別に決済を行います。RTGSはDTNSと比較し、不履行が生じた場合の原因となる取引が明確であり、また約定から決済までの期間を短縮することから決済リスクを低減させられるというメリットがあります。

デジタル証券とPMとのRTGSが実現されると、いわゆる「T+0」(約定から決済まで2営業日を要さない)で決済リスクを極小化できるようになるため、少なくとも決済リスクの観点からは、投資家間の取引に中間業者が介在する必要性がほぼ無くなってきます。暗号資産において活況を呈した、中間業者非介在のDEX(Decentralized Exchange,分散型取引所)と呼ばれる個人間の直接取引について、デジタル証券の市場においても実現性が見えてくることなります。

但し、RTGS方式はDTNSと比較して、デジタル証券売買に伴う流動性(決済用預金等)を常時確保していく必要性が生じ、そのままでは市場参加者の資金効率の低下を招きます。したがって、日中の流動性を補完する機能、例えば決済金額が不足している場合は一時的に当座貸越を自動実行する等の機能をPM側で組み込むことを想定し、STEP3として定義しています。そのため、取引の流通量増大が見込まれる投資家間直接売買(P2P取引)が併存する市場は、STEP3により流動性問題が解決した後に実現するものとしてSTEP4としています。

3. セカンダリ取引の概要

上記の内容を踏まえ、STEP3までのセカンダリ取引の概要を以下の通り図示しています。参加主体となるNodeの分類や決済フローについてまとめており、また、P2P取引を展望しているSTEP4についてもまとめていますので、それぞれについて内容を見ていきましょう。

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(1)主要な市場参加者の配置について

左側の【A】投資家(売)がSTの売側であり、右側の【C】投資家(買)がSTの買側となっています。フローに則って、STが左から右に、PMが右から左に移転するものとなっています。図の上部には【E】デジタル証券PTS業者を記載しており、社内マッチングによる約定ができない場合に活用することを前提としています。

【A】投資家(売)と取引関係のある【B】金商業者はカストディ業務を外部委託している前提となっており、【C】投資家(買)と取引関係のある【D】金商業者は自社でカストディ業務を行う前提となっています。どちらのケースも生じ得るため、それぞれのケースでの決済フローがわかるよう、分けて図示しています。

(2)Nodeについて

ST・PMいずれもBC基盤は「Corda」を利用しているという前提で、各種Nodeを記載しています。Nodeとは、BCネットワークの参加主体・コンピュータのことを指し、その役割によって複数の種類に分けられています。

Notary Node(以下、NN)は各ノードからの検証依頼に基づき、二重消費が生じないことを検証するNodeです。二重消費とは、有価証券取引上は「二重譲渡」を意味し、システム上は「データの複製」を意味しています。通常は複製し放題のためデータ自体では価値を持ちえないところ、BCでは二重消費が生じないことを技術的に担保している点が、BC上のトークンと呼ばれるデータが財産的価値を持つことができる前提となっています。NNには、検証依頼の対象となるトランザクション(価値データを移転する記録。以下、Tx)のすべてのデータを受け取るValidating Nodeと、Txの内容を参照することはできず二重消費の検証のみを行うNon-Validating Nodeの2種類がありますが、証券取引や資金取引内容は秘匿性が高く、検証者が全量を自由に参照すべきではないことから、Non-Validating Nodeを想定しています。(ProgmatのNNも、Non-Validating Nodeです)

Asset Node(以下、AN)は、発行者もしくは発行者から委託を受けた原簿管理者のNodeであり、Custodian Node(以下、CN)は、秘密鍵管理等を行うカストディアンとしてのNodeです。「Corda」の仕様としてはAN、CNという概念は存在しませんが、スキームやワークフローの内容を分かりやすくし、またどのNodeがどの範囲の情報を知ることができるかを明確に示すため、Nodeの役割を分けています。

ANは自らが発行しているSTの情報を全て閲覧可能なNodeです。現状、ProgmatスキームではMUTBのみがANとなりますが、将来的にMUTB以外の会社も原簿管理者として参画する場合は、MUTBは他の原簿管理者が管理する情報は閲覧できない仕様となります。CNはST商品別ではなく、顧客別に情報閲覧範囲を定めたNodeです。具体的には金商業者もしくは金商業者からカストディ業務の委託を受けたカストディアンがCNとなります。CNは自身の管理顧客に係る取引は全て閲覧できますが、他の金商業者の管理顧客の情報は閲覧できず、またその存在を知ることもできません。

(3)セカンダリ取引の想定フロー

①売り注文・買い注文~PTSでの約定
まず、【A】投資家(売)から【B】金商業者に対し、売り注文を出します(01)。その後、金商業者独自のUIを経由し注文を受け付け、社内でマッチングできるかが検証されます(02)。社内でマッチングできない場合、PTSに連携し、外部でマッチングを行うことになります(03)。

他方で、【C】投資家(買)が【D】金商業者に買い注文を出します(04)。独自UIを通じて社内マッチングを試み、できなければ外部でのマッチングを行う点については【A】投資家(売)と同様です(05,06)。

②PTSでの約定~CNからANへのTx回付
PTSでの約定後、売側・買側の両金商業者の証券バックシステムに外部API連携を活用した方法で約定結果が通知されます(07)。売側では約定情報に基づき、自動で【F】カストディアンにSTの仕向け指図が行われ、【F】カストディアンはProgmatの中でST譲渡のTxを生成し、自らの秘密鍵と【A】投資家(売)の秘密鍵で署名の上、買側の【D】金商業者のCNにTxを回付する処理を行います(08,09)。同様に、買側ではPTSからの約定情報を受け、【D】金商業者のCNにPMの仕向け指図が行われ、このCNはPMのBCネットワークの中でPM支払いのTxを生成し、自らの秘密鍵と【C】投資家(買)の秘密鍵で署名の上、【I】資金決済者のCNにTxを回付します(10,11)。秘密鍵による署名については過去の記事(エンタープライズ向けBC(プライベート/コンソーシアム型)の特徴と代表基盤比較)をご参照ください。

これらにより、売側のCNは買側のCNからPM支払いのTxの回付を受け、買側のCNは売側のCNからST譲渡のTxの回付を受けている状態になります。売側・買側の両金商業者はそれぞれのCNに対し被仕向けの指図を行い、両CNは回付を受けているTxに署名の上、それぞれのBCネットワーク上でANにTxの回付を行います(12,13,14,15)。

③CNからANへのTx回付~NN署名付Tx配布・反映
売側・買側双方からTxの回付を受けたAN(【J】原簿管理者)は両ネットワークのTxを照合の上承認し、それぞれのTx作成者のCNに回付します(16,17)。【J】原簿管理者はこの検証作業を行えるよう、STとPM両方のBCネットワークに参加してANを保有している前提としています。

Tx作成者であるCNはそれぞれのBCネットワークのNNにTxを回付し、各NNは二重消費検証をした上で再度Tx作成者のCNにNN署名付のTxを回付します(18,19)。NNの署名を受け取った各CNは、任意のNodeにNN署名付Txを配付し、配付を受けた各NodeがNN署名付Txを取り込むことで価値データの移転が完了します(20)。

(4)STEP4の概要

STEP3として実現を目指すセカンダリ取引の概要は上記の通りですが、STEP4として、以下の点を反映させたセカンダリマーケットの構築を目指しています。

①DEXに準じた仕組みによるP2P取引
「(3)セカンダリ取引の想定フロー」では金商業者が介在してセカンダリ取引を行う内容となっていますが、将来的にはDEXに準じた仕組みによるP2P取引の実現も考えられます。前述のとおり、DEXは分散型取引所と訳され、BCを活用したP2P取引を実現する仕組みであり、既に暗号資産同士の取引が実現しています。

②金商業者が介在しないST・PM決済
PTSを前提としたセカンダリ取引では金商業者が介在し、取引のマッチングだけでなくSTの秘密鍵を管理するカストディアンの役割も一部担っていました。一方で、セカンダリ取引が個人間で直接的に実施できる場合には、カストディアンの提供するP2P取引機能を埋め込んだ独自UIを利用するケースや、日常生活のあらゆる場面で活用できる様々なサービスが統合されたスーパーアプリ等(3rd Partyアプリ)がP2P取引機能を提供し、管理自体はカストディアンに委託するケース等、金商業者が介在しない体制も生じ得ると考えられます。

以上の内容を「(3)セカンダリ取引の想定フロー」に反映させると下図の通りとなります。

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4. まとめ

上記の通り、「デジタル証券PTSに関する提言」の前提となっている「セカンダリWG」の検討結果報告書記載のセカンダリマーケットの在り方として、前提ST商品、セカンダリ取引類型、売買価格決定方式、決済方式についてまとめ、メリットや想定される論点、規制緩和の方向性について触れました。

また、これらの要素を踏まえたセカンダリ取引のSTEP3における想定フローを示し、Progmat等BCネットワーク上でどのような主体がどの程度の情報を把握し、どのようなTxによって価値データが移転されるかをまとめました。売側投資家・買側投資家はそれぞれのCNに仕向け・被仕向け指図を行い、ST移転のBCネットワーク(Progmat)及びPM移転のBCネットワーク(CBDCを想定)上でそれぞれTxを回付し、ANによる両Txの照合及びNNによる二重消費確認を経て価値データの移転が完了することを説明しました。

さらに、上記のセカンダリマーケットの内容に加え、STEP4として想定している「①DEXに準じた仕組みによるP2P取引」、「②金商業者が介在しないST・PM決済」といった要素も記載していますが、今後セカンダリマーケットを構築するためには、整理・解決すべき複数の課題があると認識しており、少なくとも「①PTSの具体化と規制対応」、「②PMのBCネットワークへの参加」、「③RTGS実現の具体的方法」、「④P2P取引の具体化と規制対応」といった課題があると考えています。

2021年10月6日付の弊社プレスリリース記載の通り、STセカンダリマーケットの発展のための上記課題への対応含め、2023年度時点のビジョンの実現に向けた、より広範な利害関係者との合意形成を目指し、またODX様及び「Progmat」と証券会社様とのバリューチェーンや、「Progmat」を複数主体で運営する際のガバナンス設計等を詳細に定義したうえで、受容性を確認するため、第2期WGを2021年10月から開始します。今後も情報の整理、調査を進め、皆さまへの情報還元を継続いたします。個別のご質問やご相談事項がございましたら、共同検討をはじめとしたさまざまな枠組みがありますので、SRC事務局までお問合せください。

引き続き、SRCおよびProgmatをよろしくお願いいたします。

ご留意事項

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