Progmatを活用した東京都心3物件の不動産STOについて
1. はじめに
こんにちは、デジタルアセット共創コンソーシアム(DCC)運営事務局です。
前回の記事では、資金決済WGの解説記事の続編として、資金決済WGのうち「クロスチェーンRTGS分科会」の中間報告時点での検討結果について解説しました。
記事の中で解説していますが、「Progmat Coin」と他の基盤との連携方法についての検討も、SCを用いた資金決済を実装するためには欠かすことのできない大事な要素であり、引き続きWG内で検討を深めていきたいと考えています。来年度以降の実装に向けて下期も継続的に検討を進めて参りますので、引き続き動向にご注目いただけますと幸いです。
さて、今般2022年12月15日にProgmatスキームを活用したSTO(以下、本PJ)をクロージング(ST完売・資金調達完了)しました。本PJは、いちごオーナーズ株式会社(以下、IOS)様がプロジェクトオーナーとして、東京都心に所在する資産規模約54億円(鑑定評価額)の共同住宅3物件を裏付け資産とするSTOであり、STの発行価格総額は約16.3億円の案件となりました。
本PJにおいてMUTBは、先行STO案件と同様に「①受託者」、「②カストディアン(秘密鍵管理)」、「③STプラットフォーム提供者」、「④PMO(プロジェクトマネジメントオフィス)」という4つの役割を担っています。今後もこれらを通じ獲得した知見やノウハウを基に、STO市場の拡大に貢献したいと考えています。
本記事では、本PJ詳細や発行されたSTの商品性、販売状況等について解説していきますので、今後のSTO検討に活かしていただけると幸いでございます。
なお、再掲となりますが「Progmatスキーム」については以下の過去記事でご紹介していますので、併せてご参照ください。
■Progmat想定スキーム#1:受益証券発行信託を用いたデジタル証券化の法的建付け
■Progmat想定スキーム#2:Progmat利用時の取引当事者間の処理フロー概要
■Progmat想定スキーム#3:デジタル証券市場におけるカストディアンの役割とProgmat上の処理フロー
■Progmat想定スキーム#4:受益証券発行信託を用いる際の実務課題と解決策
■Progmatスキームによる不動産STOのB/S遷移と評価額の考え方
2. 本PJ裏付資産概要・ファンド概要
本PJの対象資産は、東京都心(港区および中央区)に存する共同住宅3物件です。投資家の皆様の需要状況を踏まえて、1口当たりの発行価格は50万円、発行口数は3,260口としており、総額16.3億円分のSTを投資家の皆さまに販売し、完売しております。ファンドの運用期間は約5年間で、アセットマネージャー(以下、AM)の判断により運用開始時から早期償還が可能となり、また、2年を限度として売却時期の延長が可能です。
本PJの裏付資産概要・ファンド概要を下図の通り簡単にまとめていますのでご確認ください。
3. 本PJにおける協業企業様と各社の主な役割
本PJにおける主要な協業企業は、発行体としてのIOS様、アセットマネージャーとしてのいちご投資顧問株式会社(以下、IIA)様、STの販売を担う証券会社の株式会社SBI証券(以下、SBI証券)様です。本PJはIOS様にとっての1号案件として、スキーム構築、各種論点整理、社内体制整備、ST発行手続きを経て実行に至っています。
ここからは、各社様の役割について解説致します。
(1)いちごオーナーズ様/いちご投資顧問様
築浅の共同住宅を中心に不動産事業を手掛けるIOS様は本PJの発起人であり、本PJにおいて中心的な役割を果たしています。また、IOS様は東京都心の3物件の共同住宅「GRAN PASEO麻布十番/白金高輪/日本橋箱崎町」の不動産信託受益権を、本PJの裏付資産として拠出しています。その他、IOS様の関連会社であるIIA様は、受益証券発行信託(以下、川下信託)のアセットマネジメント業務を担っています。以上の通り、本PJはいちごグループのIOS様、IIA様を中心に実行したSTO案件となります。
①委託者兼当初受益者
本PJの委託者兼当初受益者は、本件実行のために組成された法人である「合同会社IRS1(以下、IRS1)」です。ST発行のタイミングでは、IRS1が川下信託受託者であるMUTBとの間で川下信託契約を締結し、その際の委託者兼当初受益者としての役割を担います。
本PJにおいて、川下信託契約によって設定される受益権には一般受益権、精算受益権、ローン受益権の3種類があります。一般受益権はSBI証券様の引受により資金化される受益権です。精算受益者の役割については後述の「③精算受益者」にて説明します。また、ローン受益権は、川下信託の段階でレバレッジを利かせるためにローン相当額を元本金額として発行するものです。
②川下信託のAM
本PJにおける川下信託のAMとしての役割はいちご株式会社の100%子会社であるIIA様が担っています。AMとしてのIIA様は、アセットマネジメント契約に基づいて、川下信託受託者から委託を受けて、本件不動産受益権の処分、運営及び管理等並びに金銭の取得、処分及び管理等に関する業務を行います。そのため、川下信託受託者はAMの指名や交代に係る裁量や、運用判断に関する裁量を持たず、専らIIA様の決定に従い業務を遂行する建付けとなっている点は過去の案件と同様です。
③精算受益者
Progmatスキームでは、ST償還時に残存する不動産特有の債権債務の承継先を一般受益者(=個人投資家)としないために、スポンサーである委託者サイドで承継する設計としており、委託者サイドの関係会社様が精算受益者としてスキームに介在します。この点については、以前の記事でも紹介していますので、併せてご参照ください。 (不動産STO1号案件#1:プロジェクト詳細と商品性)
本PJでは、IIA様が精算受益者となっています。本PJにおける精算受益権の発行数は1個、元本額は1万円であり、先行案件と同様に投資収益の還元を優先的に受けるものと劣後するものに分けることを企図したものではありません。
なお、不動産への継続的な関与をしつつオフバランスの実現を目的とする場合5%ルールを遵守する必要がある点や、当該精算受益権の性質として、運用期間の期中配当は無く、最終信託配当支払日時点で川下信託に残存している金額のみが分配される点は、先行案件と同様となります。
(2)SBI証券様
本PJにおいて、SBI証券様はSTの取扱いおよび保護預り業務を担っています。引受契約により、委託者兼当初受益者から一般受益権を引受け(引受口数は3,260口)、2022年12月6日から12月14日の期間で募集をしました。
また、本PJにおいて、SBI証券様はSTの秘密鍵の管理および権利移転等に係る業務を、カストディアンとしてのMUTBに委託するため、MUTBとの間で業務委託契約を締結しています。その他、STの取扱い事務の一部である投資家対応を担っています。投資家への配当に際し、川下信託受託者としてのMUTBは、SBI証券様に対象投資家分の配当明細を交付の上、配当原資を一括して支払います。SBI証券様は当該配当明細に従って、各投資家の源泉徴収等税務処理を実施のうえ、配当金を分配します。
これまで説明しました本PJの座組を簡単にまとめると下図の通りとなります。
4. STの販売・商品性
ここからは、発行されたST(以下、本ST)が、どのような商品性を有し、どのように販売されるかを解説します。
(1)裏付資産
概要については前述していますが、本STの価値・収益性の裏付けとなっている不動産(以下、本物件)について、より詳しく内容を見てみましょう。本物件①(麻布十番)の外観は以下の通りです。
本物件①(GRAN PASEO麻布十番)
本物件①は、2021年1月に竣工し、1Kタイプ39戸・1LDKタイプ9戸及び店舗によって構成される全49戸の築浅の共同住宅物件です。
本物件①の所在は、東京メトロ南北線「麻布十番」駅から徒歩約4分、また都営地下鉄大江戸線「麻布十番」駅から徒歩約5分に位置しているため、主要ビジネス街や商業エリアへの交通利便性も良好で、駅周辺には「麻布十番商店街」が位置していることから、生活利便性も良好です。また、「六本木ヒルズ」や「東京ミッドタウン」といった複合型商業施設等の生活利便施設が整い、「毛利庭園」や「有栖川宮記念公園」も徒歩圏と、住環境も兼ね備えているため、単身のビジネスマンや夫婦世帯を中心に安定した賃貸需要が見込まれます。
本物件②(GRAN PASEO白金高輪)
本物件②は、2021年11月に竣工し、1K6戸・1LDK7戸・2LDK3戸からなる全16戸の築浅の共同住宅物件です。
本物件②は、東京メトロ南北線・都営地下鉄三田線「白金高輪」駅から徒歩約8分であり、都心部及び都内他地域へのアクセスに優れております。周辺は、一般住宅や中低層共同住宅が立ち並ぶ閑静な住宅地域であり、居住環境は良好であり、また、最寄駅周辺にはスーパー・飲食店・クリニック等が入居する複合施設や商店街があり生活利便性についても良好です。
本物件③(GRAN PASEO日本橋箱崎町)
本物件③は2021年12月に竣工し、1DK(25~27㎡)17戸・2LDK(52㎡)5戸からなる全22戸の共同住宅です。
本物件③の所在は、東京メトロ半蔵門線「水天宮前」駅から徒歩約5分、東京メトロ日比谷線・東京メトロ東西線「茅場町」駅から徒歩約6分に位置しており、高い交通利便性を有します。また、東京駅を中心とする丸の内、大手町、日本橋、八重洲、茅場町等の都心ビジネス街へもアクセスが容易となっており、当該エリアの就労者にとって高い利便性も有しています。
なお、3物件全体の稼働率は9月末時点で約95.4%(戸数ベース)となっており、安定的な稼働を維持していると評価できます。
(2)配当
本STの配当についてご説明致します。投資家にとってST投資を考える上では非常に大事な要素となりますので、詳細を解説させていただきます。
①期中信託配当
本STの期中配当は年に2回行われます。信託計算期日は1月末と7月末(営業日でない場合は前営業日)であり、この信託計算期日に配当が実行されます。初回(第1期)の配当は2023年7月31日に支払予定となっています。なお、案件によっては配当支払日が決算日以降の日になるものもございますが、配当の収益認識日問題詳細は過去解説記事の「不動産STO2号案件:PJ詳細とSTの商品性について」をご参照ください)がございますので、本件では配当を決算日(=信託計算期日)とする必要があり、このような形とするものです。
本STの配当予想金額や想定利回りについては、今後アセットマネージャーであるIIA様が作成・運営するHPやプレスリリースにて情報開示がされる予定となっております。詳しい情報は当該HP(https://www.ichigo-sto.com/)等にてご確認ください。
②最終信託配当
期中信託配当と同様、IIA様、SBI証券様、MUTBが連携して配当を実行します。期中信託配当では、権利確定日は信託計算期日(1月末or 7月末)としていますが、最終信託配当については、信託終了日が権利確定日となります。
また、期中信託配当との相違点として、STの裏付資産である不動産信託受益権の売却損益が配当に反映される点を挙げることができます。売却先の選定・条件交渉はIIA様が担うことになりますが、本PJではこの時期について以下のような取決めとなっています。
本STの運用期間は原則5年であり、2028年1月期を最終期としています。過去案件でも同様の設計のものがありますが、アセットマネージャーの判断で早期償還を行う事が可能であり、また、運用期間終了後2年後(2030年1月期)までを限度として、運用期間の延長をすることも可能となっています。IIA様によって時期の延長判断が可能であり、最終信託配当を含む投資家のトータルリターンを極大化するため、不動産市況の変化を見極めた柔軟な売却・換金が期待されます。
(3)本STの販売
本商品は、STとして発行された一般受益権を引受証券であるSBI証券様が引受審査等のプロセスを経て引受を行い、公募にて投資家に販売するものです。
本STの購入に際しては、SBI証券様の証券口座を有している必要があります。
本ST購入時の証券会社様と投資家との間の手続きとしては、基本的には従来の投資商品を購入する場合と変わりませんが、SBI証券様制定の取引約款に同意いただく等の必要があります。その他、詳しい対応事項については過去の記事(不動産STO1号案件#1:プロジェクト詳細と商品性)にて解説していますので、併せてご参照ください。
本STの投資単位について、1口当たりの発行価格は50万円、最低投資単位は2口からとなっています。募集は前述の通り12月上~中旬に実施しており、既に発行は完了し、完売しています。
ここで、今までの説明のまとめとして本STの販売・商品性についての情報を掲載します。
5. まとめ
今回の記事では、2022年11月11日に公表し12月15日に実行したPJについて、PJの参加者やその役割、また商品性、販売方法について解説しました。
発行体(委託者)様サイドには、委託者兼当初受益者(としてのブリッジファンド)としての役割だけで無く、スキーム上、精算受益者としての役割を担っていただく必要があることや、当該精算受益権の性質についても説明しました。
国内でも複数のSTO実績が積みあがっているなかで、不動産のアセットタイプや金額規模およびSTO案件に取組む発行体様も拡がりを見せてきています。引き続き、発行体様のニーズに合わせSTOを検討できるよう、Progmatを活用したサービスを提供していきますので、ご検討の際にはぜひ事務局にご相談ください。
次回以降も、よりタイムリーに皆様にとって価値のある情報発信ができる記事を掲載して参ります。今後もST発行実績に基づく成果や、各種WGを通じて得られる成果についての情報還元を継続し、皆さまのご検討の一助となればと考えています。個別のご質問やご相談事項がございましたら、共同検討をはじめとしたさまざまな枠組みがありますので、DCC事務局までお問合せください。
引き続き、DCCおよびProgmatをよろしくお願い致します。
ご留意事項
- 本稿に掲載の情報は執筆時点のものです。また、本稿は各種の信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性・完全性について株式会社Progmatが保証するものではありません。
- 本稿に掲載の情報を利用したことにより発生するいかなる費用または損害等について、株式会社Progmatは一切責任を負いません。
Digital Asset Co-Creation Consortium | Co-creation network for establishing STO