【速攻解説】「Project Pax」は何を目指しているのか?(国際送金の基本やSwiftの役割から、SCのチャレンジと乗り越え方まで、必要な情報全部まとめ)
こんにちは、プログラマブルな信頼を共創したい、Progmat(プログマ)の齊藤です。
2024年9月5日に、本年9件目のプレスリリースを発信しました。
タイトルは、「クロスボーダーステーブルコイン送金基盤構築プロジェクト「Project Pax」の始動 および 国内外金融機関との実証実験の開始について(Progmat and Datachain Launch Project Pax – Initiating Pilot Test for Cross-Border Stablecoin Transfer Platform with Financial Institutions Worldwide)」です。
News|【Progmat】デジタルアセットプラットフォームニュースリリースやトピックス、Progmatについて掲載された各種メディア記事さまざまな情報をご紹介します。progmat.co.jp
昨日の日経電子版(イブニングスクープ)、本日の日経朝刊(一面アタマ)でも報道されていた取り組みです。(人生8度目の一面)
3メガバンク、貿易代金を即時送金 企業のコスト大幅減 【イブニングスクープ】 – 日本経済新聞三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)など3メガ銀行は、銀行間の国際的な決済インフラやブロックチェーン(分散型台帳)技www.nikkei.com
===2024/9/18追記===
国際決済銀行(BIS)が進める「Project Agora」の日経朝刊掲載と合わせて、改めて「Project Pax」も朝刊で紹介されています。
世界40社超でデジタル決済、三菱UFJ銀行など3メガバンク参加 越境送金迅速に – 日本経済新聞デジタル通貨を使った国際決済の実証実験「アゴラプロジェクト」に、日米欧の主要銀行がそろって参加する。三菱UFJ銀行など3メwww.nikkei.com
また、シリーズ的に継続開催中の「CoinDesk JAPAN Talk -RWA-」で1時間まるまる本件を解説していまして、通常回比較で多くの方に聴いていただいているようなので、よろしければこちらも!(アーカイブ収録聴けます)
===追記おわり===
プレスリリース等を実施したイベント週では、
情報解禁後いち早く正確に、背景と内容についてこちらのnoteで解説しています。
”銀行送金”、”国際送金”、”クロスボーダー×ブロックチェーン”…といった単語が出てくる際に必要な背景知識は、一式全て盛り込んだつもりです。
読めば読むほど味わい深い内容になっている一方、これまでで最大の分量となっているので、ぜひブックマークのうえ随時お手元でご参照いただけますと執筆者冥利につきます…!
ということで、通算28回目の本記事のテーマは、
「【速攻解説】「Project Pax」は何を目指しているのか?(国際送金の基本やSwiftの役割から、SCのチャレンジと乗り越え方まで、必要な情報全部まとめ)」です。
目次
- 要旨
- そもそも、現状の国際送金ってどんな感じ?
- まずは大前提の「現状の国内送金(内国為替)」のポイント
- 次に「現状の国際送金」のポイント
- いまさら聞けない「Swift」って、なに?
- 「Swift」の役割/ポジション
- メッセージフォーマットの”これまで”と”これから”
- 「クロスボーダー送金」の課題と潮流とは
- クロスボーダー送金とSC
- 「Project Pax」は何を解決するのか?
- 「Project Pax」とは?
- 「SC×銀行間連携のハイブリットモデル」とは?
- 「オンチェーン部分」のポイントは?
- さいごに
要旨
時間のない方向けに、端的にサマると以下のとおりです。(動画でコンセプトはザックリわかると思います)
https://youtube.com/watch?v=N_FitERnQ6Q%3Frel%3D0
- 前提、「現状の国際送金プロセス」を含む銀行送金とは、現金の物理的な直接輸送を伴うことなく、繋がりをもった銀行間のデータ連携(勘定データの異動の連鎖)により、デジタル上で価値を移転する仕組みです。
- 銀行間のデータ連携のための世界的な標準インフラを提供し、世界中の金融機関間のやりとりを可能にしているのが、「Swift」です。
- G20/FSBがおおむね2027年までの解決目標としている「クロスボーダー送金の課題」は、「①送金コスト」「②着金スピード」「③アクセス」「④透明性」です。
- ソリューションとして期待されているブロックチェーン技術を用いた送金アプリケーションとして、「Stable Coin(日本の”電子決済手段”)」、「Tokenized Deposit(トークン化された預金)」、「CBDC(中央銀行デジタル通貨)」があります。
- SCは、物理的な現金や、間接当事者が多い既存の銀行送金と比較して、「デジタル完結かつ直接的な価値移転が可能な”デジタル上の現金”」という性質を有しています。
- ただしファクトとして、海外で先行していた既存のSCは、「暗号資産取引」セグメントでの利用に留まっているという現状があります。
- 実体経済におけるSC活用のハードルの1つを「利用法人における、自己管理ウォレット導入や既存プロセスと複線化してしまうことのハードルの高さ」にあると捉え、「自己管理ウォレット利用によるP2P送金」の選択肢(利用者の状況によるため、このパターンも否定しません)に加えて、”もう1つの選択肢”を新たに提供することで利活用範囲を拡張するのが「Project Pax」です。
- 具体的には、「銀行UI」「Swift APIプラットフォーム」「SC」の仕組みを融合したハイブリットな「クロスボーダーSC送金基盤」の構築を目指しています。
- 3メガバンク以外の外国金融機関を含めた関係金融機関の座組みや、Datachain&TOKIとタッグを組んで取り組むプロダクトの詳細は、進展に応じて継続的に情報を公開していきます。(一緒に世界に挑むメンバー募集中!)
では、順番に解説していきます。
そもそも、現状の国際送金ってどんな感じ?
”トークン化”による新たなソリューションのポイントを理解するために、背景として「現状の国際送金」の”今さら聞けないキホンの部分”を俯瞰してみます。
さらに、「現状の国際送金」を理解するための”今さら聞けない大前提情報”として、単純な「現状の国内送金(内国為替)」を俯瞰したうえで、「現状の国際送金」へと話を進めたいと思います。
実際の実務はさまざまなパターンがあるところですが、シンプルな1例ということで、思い切って焦点を絞って図解していきます。
(金融機関の中でも決済領域のご担当の方等、この分野のプロの方にとっては、既知かつ突っ込みたくなるレベルで時系列等をシンプル化した内容になるので、適宜次の章へ飛んでいただければと思います)
まずは大前提の「現状の国内送金(内国為替)」のポイント
たとえば企業Xから企業Yへ送金したい場合、現金をトラックに積んで企業Yの財務部へ直接届けるようなことは、通常しないでしょう。
(物理的にできなくはないですが、様々なリスクやペインがありすぎる)
現金を届けなくてもいい方法として、銀行間ネットワーク(内国為替)を利用する方法があります。
ということで、内国為替における主要な取引参加者とバランスシートを俯瞰します。(図表1)
- 【X】
- 送金元企業
- 【Y】へ送金したい
- 【Bank A】
- 【X】の取引先銀行
- 【X】からの送金依頼を受けて【Y】の口座へ入金したい(=仕向け銀行)
- 中央銀行に当座預金残高を有する
- 【Bank D】
- 【Y】の取引先銀行
- 【Bank A】からの送金依頼を受けて【Y】の口座へ入金したい(=被仕向け銀行)
- 中央銀行に当座預金残高を有する
- 【Central Bank①】
- Country①における中央銀行
- 【A】や【D】からの当座預金を受け入れ、貸出や国債買入等を実施している
ここで、金融機関の中の人にとっては当然の常識ながら、金融機関の中の人ではない大多数の方にとっては”肌感覚に反する”前提情報についても触れておきます。それは、銀行にとって、「預金は負債である」ということです。
- 【預金】
- 企業/個人にとっては「債権」(バランスシート左側の「資産」)
- 銀行にとっては「債務」(バランスシート右側の「負債」)
- 【中央銀行当座預金】※例:日銀当預
- 銀行にとっては「債権」(バランスシート左側の「資産」)
- 中央銀行にとっては「債務」(バランスシート右側の「負債」)
では、”お金”を動かしていきます。
(以後、図解趣旨に照らしたシンプル化のために、銀行送金手数料や外国為替手数料等はゼロとして見ていきます)
- ①:【X】が【Bank A】に、【Bank D】の【Y】名義の口座への送金依頼[20]を行う
- ②:【Bank A】には【Bank D】に対する支払債務が、【Bank D】には【Bank A】からの受取債権と同時に【Y】への支払債務が、それぞれ[20]ずつ発生する
- ③:【Bank A】と【Bank D】間の債権/債務を清算し、差額を【Central Bank①】内の当座預金振替(【A】残高→【D】残高)によって決済する
- ④:【Bank A】の【Central Bank①】への預け金残高が[80](100‐20)になる
- ④’:【Bank D】の【Central Bank①】への預け金残高が[120](100+20)になる
- ⑤:【Bank D】において【Y】への支払債務[20]を解消し、代わりに【Y】からの預金(債務)を[120](100+20)に増やす
- ⑥:【Bank D】から【Y】へ[20]の入金通知を行う
かくして、現金を直接輸送せずとも、銀行間ネットワークを利用することで無事に【Y】の口座へ入金することができました。
ここまで確認してきた銀行間ネットワークを利用した送金方法において、ポイントは以下の点です。
- 【ポイント①】銀行間で支払債務/受取債権が発生していることが前提
- 【ポイント②】銀行間で預金債務/預け金を持ち合っていることが前提
- 【ポイント③】銀行間で支払債務/受取債権の異動と、預金債務/預け金の異動とを連鎖させることで、物理的な現金の異動と伴うことなく、勘定の異動(=デジタル上の数値変動)だけで送金を実現
- 【ポイント④】仕向け銀行と被仕向け銀行との”中継”は、双方の口座を有する中央銀行が実施
上記のポイントを念頭に置きつつ、いよいよ「国際送金」の流れを確認していきます。
次に「現状の国際送金」のポイント
先ほどのポイント①~④のうち、内国為替と国際送金の最大の違いは、仕向け銀行の所属国と被仕向け銀行の所属国が異なるため、中央銀行がそれぞれの国毎に存在し、「双方の口座を有する中央銀行」が存在しない、という点です。
【ポイント④】が満たせず、そのままでは【ポイント①】【ポイント②】を満たせないことで、【ポイント③】も実現できない、ということになってしまいます。
すべての仕向け銀行と被仕向け銀行が、それぞれ直接口座(預け金/預金)を持ち合うことも理屈としては可能ですが、N:Nで口座を持ち合うのは非常に資金効率が悪いうえ、預金先銀行の信用不安時には預け元の銀行にも大きな被害が波及する虞があるため、あまり現実的ではありません。
そこで中央銀行や各個別行に代わって、大元の仕向け銀行と最終的な被仕向け銀行を繋ぐための、”中継銀行”が必要となります。
この”中継銀行”こそが、いわゆる「コルレス銀行(Correspondent Bank)」です。
ある銀行が「コルレス銀行(コルレス先)」と結ぶ「コルレス契約」とは、為替業務の代行に関する契約です。取り決め内容は個別行間で様々ですが、例えば「為替決済口座(コルレス口座)」を開設してその口座から相手先口座に送金をしてもらう、などの取扱いを規定しています。
ということで、国際送金における主要な取引参加者とバランスシートを俯瞰します。(図表7)
- 【X】
- 送金元企業
- 【Y】へ送金したい
- 【Bank A】
- 【X】の取引先銀行
- 【X】からの送金依頼を受けて【Y】の口座へ入金したい(=仕向け銀行)
- Country①の中央銀行にのみ当座預金残高を有する
- 外国金融機関とコルレス契約を締結していない(できない)ため、国内の【Bank B】と契約を締結し、国際送金業務を委託している
- ※例:日本の地方銀行
- 【Bank B】
- Country①の中央銀行にのみ当座預金残高を有する
- 外国金融機関【Bank C】とコルレス契約を締結し、コルレス口座を有している
- 【Bank A】等の国内銀行とも契約を締結し、外国為替業務を受託している
- ※例:三菱UFJ銀行
- 【Central Bank①】
- Country①における中央銀行
- 【A】や【B】からの当座預金を受け入れ、貸出や国債買入等を実施している
- 【Bank C】
- Country②の中央銀行にのみ当座預金残高を有する
- 外国金融機関【Bank B】とコルレス契約を締結し、【Bank B】のコルレス口座を開設している
- 【Bank D】等の国内銀行とも契約を締結し、外国為替業務を受託している
- 例:JP Morgan
- 【Bank D】
- 【Y】の取引先銀行
- 【Bank A】(及びその委託先)からの送金依頼を受けて【Y】の口座へ入金したい(=被仕向け銀行)
- Country②の中央銀行にのみ当座預金残高を有する
- 外国金融機関とコルレス契約を締結していない(できない)ため、国内の【Bank C】と契約を締結し、外国為替業務を委託している
- ※例:外国の地方銀行
- 【Central Bank②】
- Country②における中央銀行
- 【C】や【D】からの当座預金を受け入れ、貸出や国債買入等を実施している
図表の中で薄青色でハイライトしている【Bank B】がCountry①におけるコルレス銀行、【Bank C】がCountry②におけるコルレス銀行、です。
双方がお互いに有しているコルレス口座(図中ではB→Cのみ図解し、C→Bの口座は割愛)は、各当事者の勘定科目としては例えば以下のように処理されています。
- コルレス口座の勘定科目(例)
- 口座開設元の銀行にとっては「外国他店預け」(バランスシート左側の「資産(債権)」)
- 口座開設先の銀行にとっては「外国他店預り」(バランスシート右側の「負債(債務)」)
【X】から外国の【Y】へ[20]送金した後の”ゴールイメージ”を先に図示すると、図表8のとおりです。
(【A】のB/Sが▲20、【D】のB/Sが+20で、コルレス銀行【B】【C】のB/Sは±0)
では、どういった経路で上記の”ゴールイメージ”まで到達するか、順を追って確認します。
(以後、図解趣旨に照らしたシンプル化のために、銀行送金手数料や外国為替手数料等はゼロとして見ていきます)
- ①:【X】が【Bank A】に、【Bank D】の【Y】名義の口座への送金依頼[20]を行う
- 内国為替との最大の違いは、【Bank D】がCentral Bankの当座預金を介して繋がっている先ではないという点
- 送金依頼時に利用する”あるコード”を指定することで、【Bank A】から【Bank D】に到達するための経路が事後的に決定される(ここが非常に重要なポイント=次の章で解説します)
- ②:【Bank A】には【Bank B】に対する支払債務が、【Bank B】には【Bank A】からの受取債権と同時に【Bank C】への支払債務が、【Bank C】には【Bank B】からの受取債権と同時に【Bank D】への支払債務が、【Bank D】には【Bank C】からの受取債権と同時に【Y】への支払債務が、それぞれ[20]ずつ発生する
- ③④:【Bank A】と【Bank B】間の清算/決済は内国為替と同様
- ⑤:【Bank B】内で、中銀預け金残高から【Bank C】への預け金残高へ[20]を振替
- ⑥:【Bank C】内で、【Bank B】からの預り金(負債)が[20]増加した分、バランスシートの資産の部である中銀預け金残高が[20]増加して、バランスする
- ⑦:上記やりとりで【Bank B】と【Bank C】間の清算/決済が完了する
- ⑧⑨:【Bank C】と【Bank D】間の清算/決済は内国為替と同様
- ⑩⑪:【Bank D】から【Y】への入金通知までは内国為替と同様
かくして、現金の海上輸送等で物理的に国境を越えずとも、銀行間ネットワークを利用することで無事に【Y】の口座へ入金することができました。
ここまで確認してきた銀行間ネットワークを利用した国際送金方法において、ポイントは以下の点です。
- 【ポイント①】銀行間で支払債務/受取債権が発生していることが前提(内国為替と同じ考え方)
- 【ポイント②】銀行間で預金債務/預け金を持ち合っていることが前提(内国為替と同じ考え方)
- 【ポイント③】銀行間で支払債務/受取債権の異動と、預金債務/預け金の異動とを連鎖させることで、物理的な現金の異動と伴うことなく、勘定の異動(=デジタル上の数値変動)だけで送金を実現(内国為替と同じ考え方)
- 【ポイント④】仕向け銀行と(外国)被仕向け銀行とが直接的に繋がっていない場合、各行と直接繋がりのある(複数の)銀行を”中継”する必要があり、”中継地点”を含めた「経路設定」が不可欠となる
ここで、先ほど後述するといった「経路設定」のために利用する”あるコード”の関係組織として登場するのが、皆さまお待ちかねの「スイフト(Swift)」です。
いまさら聞けない「Swift」って、なに?
「Swift」の役割/ポジション
更に詳しい情報の続きは、noteの公開記事をご覧ください(↓)