【速攻解説】いよいよ公開、貿易×ステーブルコイン。必要な情報全部まとめました(決定版)
こんにちは、プログラマブルな信頼を共創したい、Progmat(プログマ)の齊藤です。
2024年1月31日に、本年1件目のプレスリリースを発信しました。
タイトルは、「国産ステーブルコインの貿易決済活用に向けた共同検討開始について(Collaborative Exploration of Japanese Stablecoin Utilization for Trade Settlements)」です。
News|【Progmat】デジタルアセットプラットフォームニュースリリースやトピックス、Progmatについて掲載された各種メディア記事さまざまな情報をご紹介します。progmat.co.jp
昨日の日経電子版、今朝の日経朝刊にも掲載された取り組みです。
三菱UFJ信託、デジタル通貨で貿易決済 新興と連携 – 日本経済新聞三菱UFJ信託銀行は円や米ドルなど法定通貨に連動するように設計されたデジタル通貨を貿易決済で活用するため、貿易向けのシステwww.nikkei.com
プレスリリース等を実施したイベント週では、
情報解禁後いち早く正確に、背景と内容についてこちらのnoteで解説しています。
ということで、通算15回目の本記事のテーマは、
「【速攻解説】いよいよ公開、貿易×ステーブルコイン。必要な情報全部まとめました(決定版)」です。
目次
- はじめに
- そもそも、現状の貿易取引ってどんな感じ?
- 「船荷証券(B/L)」発行まで
- 「船荷証券(B/L)」の役割と荷渡し完了まで
- 資金決済オプション「信用状(L/C)」とは
- 貿易取引における課題って、なに?
- ”船荷証券(B/L)の危機”
- 「新興国貿易」における不平等/不利益
- まとめると、どこがUnhappyなの?
- 「電子船荷証券(E-B/L)」を巡る現状と展望は?
- 海外/民間主導の取り組みと日本法上の課題
- 日本における法整備の経緯と方向性(「電子船荷証券記録」?)
- 今回の座組みで何を実現するの?
- 「船荷証券NFT」との連携
- 「各種国産SC」の国際取引利用
- 「船荷証券NFT↔SCのDVP」と「新ウォレット」
- まとめると、どこがHappyなの?
- 「RWAトークン化」文脈での位置づけは?
- 「慣性の法則」と「新興国貿易フォーカス」
- 「決済システムのグランドデザイン」における位置づけ
- おわりに
はじめに
皆さんは、貿易の歴史や実務にお詳しいでしょうか?
大変恐縮ですが、齊藤は素人です。(すみません…)
これまで解説してきた「ST」(電子記録移転有価証券表示権利等)や「SC」(電子決済手段)等は、”起こりのときから中の当事者”でしたが、貿易取引やその電子化については、非常~に長い歴史があり、残念ながら私は当時者ではありませんでした。
そんな中、以下のような偶然の出逢いがあり、この分野の面白さに目覚めたという状態です。
- 同志社大学 高橋宏司教授
- https://www1.doshisha.ac.jp/~tradelaw/indexJP.html
- 高橋先生からお声がけいただき、法科大学院でゲスト講義を持たせていただくと共に、「船荷証券(後述)×国際私法×ブロックチェーン」の面白さに気づかせていただきました。
- STANDAGEの皆さん
- https://standage.co.jp/
- STANDAGEさんからお声がけいただき、今回の協業に至ると共に、「貿易実務×新興国×ブロックチェーン」のポテンシャルの大きさに気づかせていただきました。
普段、「公の場/ネットでは”自分が素人”の分野では意見も発信もしない」と決めているのですが、上記のプロの方々のお話や以下のような文献を基に、”素人が自分の頭の整理を兼ねて、極力誰でもわかるように全体像をまとめてみたもの”として作成しました。
- 【参考文献①】「有価証券の電子化のためのブロックチェーン 利用の法的課題 -船荷証券と UNCITRALモデル法に着目して- Legal Issues Arising From the Use of Blockchains for the Dematerialization of Negotiable Instruments with a Particular Focus on Bills of Lading and the UNCITRAL Model Law -」(高橋先生から謹呈いただいたもの)
- 【参考文献②】「船荷証券に関する規定等の見直しに関する中間試案の補足説明」(法務省民事局参事官室)
そのため、プロ目線からは前提理解や表現等に違和感がある箇所もあるかもしれませんので、お気づきの点があればぜひコメント欄でご指摘いただけると大変ありがたいです(すぐ更新します)!
という、最大限のディスクレーマーをしたところで笑、順を追ってみていきます。
そもそも、現状の貿易取引ってどんな感じ?
”トークン化”による高度化を詳しく見る前に、背景として「現状の貿易取引」を俯瞰してみます。
実際の実務はさまざまなパターンがあるところですが、シンプルな1例ということで、思い切って焦点を絞って図解していきます。
「船荷証券(B/L)」発行まで
俯瞰フローはこちらです☟
ざっくりいうと、①売買契約を締結し、②(貿易取引に限らず、企業間の支払いの前後関係は力関係によりまちまちですが、前払いとした場合)輸入企業が輸出企業に対して購入対価を国際送金し、③対価支払を確認後に輸出企業は輸出製品の運送を運送人に委託し、④運送人は受け取った荷物を船積みした後に「船荷証券」を発行します。
1つ目の専門用語が出てきました。「船荷証券」(Bill of Lading、略してB/L)とは何でしょうか?
要は、運送した後に荷物を受け取る際に必要になる権利証のようなもの(受戻証券)です。「船荷証券」には、法律によって様々な効力が認められており、例えば、「船荷証券」の引渡しには運送品の引渡しがあったのと同じ効力も認められています(商法763条)。船で運送する荷物は、法的にいえば「動産」です。「動産」の権利者は、その「動産」を物理的に占有している人です。なので、「動産」を誰かに譲渡した場合(貿易では、輸出企業から輸入企業に対して売り渡しますね)、譲受した人(輸入企業)は物理的に引き渡されていなければ、第三者に対して権利を主張できません(いわゆる第三者対抗要件)。
船で運送している間、買ったはずの「動産」を物理的に占有できないため、権利状態としては不安定になってしまいます。そこで、「荷物(動産)」の代わりに「船荷証券(物理的な券面)」を引き渡せば、対象となっている「荷物(動産)」の物理的な引渡しをした状態と同じ効力(要は第三者対抗要件の具備)を認めているのです。
ちなみに「船荷”証券”」という名前ですが、船積みした荷物を受け戻す「受戻証券」としての性格で、保有していたところで利子/配当等の利益分配を受ける性格のものではありません。ということで、”金融商品取引法上の有価証券”ではありません。(金融商品取引法第2条で具体列挙)
「船荷証券(B/L)」の役割と荷渡し完了まで
そんな「船荷証券」を発行してから、実際に「荷物」を受け取る(輸入する)までの俯瞰フローはこちらです☟
ざっくりいうと、⑤(荷物が届く前に届くであろう)「船荷証券」を輸入企業に送付すると共に、⑥「荷物」を海上輸送し、⑦輸入企業は受け取った「船荷証券」を運送人に提示し、⑧「荷物」を受け取ります。
ここで「船荷証券」が力を発揮するのが、輸出企業が第三者に二重で売買契約を結んでいたようなケースです。上記ポンチ絵の企業Zも、輸出企業Xが実は企業Yに先に売却していた、とは知らないとします。「荷物(動産)」の権利は、「荷物(動産)」を化体している「船荷証券(物理的な券面)」を物理的に占有している人が取得しますので、「船荷証券」をもっている企業Yの勝ちです。ということで、「荷物」の受け取りまで時間を要する貿易(海上輸送)において、「船荷証券」は大変重要な役割を担っています。
資金決済オプション「信用状(L/C)」とは
最初の俯瞰フローで「②輸入企業が輸出企業に対して購入対価を国際送金し(貿易取引に限らず、企業間の支払いの前後関係は力関係によりまちまちです)」と書きましたが、「信用状(L/C)」を活用するという別の方法もあります。俯瞰フローはこちらです☟
2つ目の専門用語が出てきました。「信用状」(Letter of Credit、略してL/C)とは何でしょうか?
要は、銀行が輸入者の代わりに購入対価を支払うことを保証するものです。この銀行の約束によって、輸出者は自身の取引銀行を通じて相手の銀行が約束してくれていることを知り、購入代金を受け取る前でも安心して「荷物」を送ることができます。
輸入者にとっても購入代金を前払いする必要がなく、前述の「船荷証券」等の船積み書類の銀行によるチェックを経てから支払が実行されるメリットがあります。
貿易取引における課題って、なに?
貿易取引の現状について確認してきました。パッと見で、多くの「物理的な書類」や「中間業者」が存在し、それが国を跨いでやりとりされていることがお分かりいただけたと思います。
この”バケツリレー感”、ブロックチェーン/トークンビジネスに噛んでいる人はすぐに”ToBe”を考えたくなるところだと思いますが(私もそのタチ)、はやる気持ちをぐっとおさえ、まずは具体的にどんな困りごとが発生しているのかを見ていきます。
”船荷証券(B/L)の危機”
まずは「船荷証券(券面)」に関する課題です。
「船荷証券」は物理的な券面なので、輸出国から輸入国へ物理的に送付する必要があります。普通に考えると、「荷物」を載せた船よりも先に輸入国に到着しそうですが、これが逆転するケースも発生します。
特にアジアなど航海期間が短い海上輸送では、船舶の高速化等を背景として輸送時間が大幅に短縮されたことで、発生する蓋然性が高いといえます。
「船荷証券」が未着なため、「船荷証券」に基づく「荷物」の引渡しを適時に行うことができないという事態が頻発すること、これは”船荷証券の危機”ともいわれています。
「新興国貿易」における不平等/不利益
次が国際送金、特に新興国における「外貨送金/信用状取引」に関する課題です。
貿易取引における資金決済は、多くのケースで米ドルが利用されているのが実態です。ところが新興国では、情勢や経済制裁による外貨規制で、スムーズに米ドル決済ができないケースが少なくありません。ある新興国では、貿易取引における資金決済は「信用状取引」の利用がマストとなり、その利用の都度中央銀行の許可を要する等の制限により送金に数か月の時間を要したり、そもそも銀行与信のない零細企業は「信用状」利用ができず海外直接取引ができない(もしくは多額の手数料が必要となる)、といった多くの課題が発生しています。
「信用状」の開設がされない限り売買契約が締結されないということは、新興国における輸入品が原材料の場合は生産計画が立てられないことになりますし、生活必需品を含めて欲しいものが欲しいときに手に入らない、といった不平等/不利益が発生していることを意味します。
また、国際送金に多くの中間業者(銀行)/システムが介在することで期間/コストがかかるのは新興国に限った話ではないですが、新興国では更に多国・多数の銀行を経由する必要があり、更に手数料が高額になります。
そして、これらの手数料等の負担は当然売買契約における取引条件に反映されるため、新興国のみならず、新興国の取引相手(例えば、日本)にとっても他人事ではありません。
まとめると、どこがUnhappyなの?
これらをまとめると、特に新興国との取引において、「船荷証券(券面)」と「外貨送金/信用状取引」の双方で課題が生じたまま、現在も取引が行われているのが現実です。
多くの課題を抱えながらも、全世界の貿易取引高約2,800兆円のうち、およそ4割にあたる1,000兆円超を新興国貿易が占めていますので、非常に大きな”負”が生じていることがお分かりいただけましたでしょうか。
「電子船荷証券(E-B/L)」を巡る現状と展望は?
ここから、いよいよ”ToBe”の話に移っていきます。
更に詳しい情報の続きは、noteの公開記事をご覧ください(↓)
https://note.com/tatsu_s123/n/nf46b0b589be2#2b7427ee-9121-4055-80be-f86fd508a504