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“理想のステーブルコイン”は実現できるの?(できる)

こんにちは、プログラマブルな信頼を共創したい、
Progmat(プログマ)の齊藤です。

10月2日の新会社設立に合わせて公開した第1回記事では、
「そもそも、Progmatって何なん?」を解説し、
第2回記事では、
「なんでトークン化するの?」を解説しました。

https://note.com/embed/notes/n810efe3f421b

トークン化にはいくつか種類があり、
セキュリティトークン化(ST化)する意義や、
ステーブルコイン(SC)がなぜ必要なのか、
の勘所をザックリ押さえることができたかなと思います。

そこで、第3回の本記事のテーマは、
「”理想のステーブルコイン”は実現できるの?」
です。
結論からいうと、できます

目次

  1. “理想のステーブルコイン”の要件を合わせる
  2. 「絶対にデペッグしない」=通貨建資産
  3. 「誰でもアクセス&どこでも送れる」≒不特定者間使用/売買
  4. ”理想のステーブルコイン”=日本法上のステーブルコイン(電子決済手段)という話
  5. そもそも、”銀行預金型ステーブルコイン”は現時点で実現可能なのか?
  6. 客観的にいって、「信託型ステーブルコイン」が現時点で最も使いやすい
  7. 「信託型」は、発行希望者にライセンスが必要ない
  8. 「信託型」は、発行事業者の倒産リスクを負わない
  9. 「信託型」は、KYC未済アドレスを含めて送金できる(!)
  10. 「資金移動型」は、送金上限額に制約がある

“理想のステーブルコイン”の要件を合わせる

ステーブルコインに限った話ではないですが、
たまに”嚙み合わない議論”を目にしたことはないでしょうか?
多くの場合、議論している方々のスループット(情報処理能力)にそこまで大きな違いはないので、”噛み合わない”(アウトプットが異なる)原因は、お互いに持っている”前提情報”が異なる(インプットが異なる)から、と考えています。

そこで、まずは前提情報(インプット)を揃えさせてください。
私たちの考える、”理想のステーブルコイン”の要件は以下のとおりです。

  1. 誰でもアクセスできる
  2. どこにでも送れる
  3. 絶対にデペッグしない(特定の法定通貨と常に等価で交換できる)
ステーブルコインと既存のデジタルマネーの違いとは?(第2回記事より再掲)

「1.誰でもアクセスできる」の反対は、「特定の参加者しかアクセスできない」です。どちらが利便性が高いかは自明かなと思います。

「2.どこにでも送れる」の反対は、「特定の参加者にしか送れない」です。どちらが利便性が高いかは…(略

「特定の参加者しかアクセスできない」或いは「特定の参加者にしか送れない」コインはいわば「ガラパゴスコイン」であり、
意味が無いとは言わないですが、少なくとも理想的ではない、と考えています。

次に、
「3.絶対にデペッグしない(特定の法定通貨と常に等価で交換できる)」の反対は、「常に特定の法定通貨と等価で交換できるとは限らない」「ある日突然、あると思っていた価値がなくなる」です。

一見すると、「ステーブルコイン(安定的なコイン)」と謳っている以上、前者の「3.絶対にデペッグしない」は当然のように思えます。
後者は「ステーブルじゃないコイン」です。

但し実態は、現時点で存在しているほぼ全ての”自称ステーブルコイン”は、デペッグした過去を持ちます。
悲惨なプロジェクトでは、価値がほぼゼロになっているものもあります。
「ステーブルコイン」と称したプロダクトである以上、「3.絶対にデペッグしない(特定の法定通貨と常に等価で交換できる)」は必須であると考えています。(正に”プログラマブルなトラスト”の真価発揮です)

この時点で”考えている理想”が異なる場合(=「ガラパゴスコイン」又は「ステーブルじゃないコイン」を期待している場合)、
以下の解説は参考になりませんので、ご留意いただければと思います。

また、法的な見解は当然個別具体的な内容次第ですので、あくまでビジネスパーソンとして把握しておくと役に立つポイントを、齊藤の個人的理解ベースでザックリ解説するものです。

では、話を進めます。

「絶対にデペッグしない」=通貨建資産

「絶対にデペッグ(ペグが外れる)することはない」
=「常に、特定の法定通貨と等価で交換できる」
これを法律的に表現すると、

”本邦通貨若しくは外国通貨をもって表示され、又は本邦通貨若しくは外国通貨をもって債務の履行、払戻しその他これらに準ずるもの…が行われることとされている資産”

改正資金決済法2条7項

であり、これを「通貨建資産」と呼びます。

さて、
既に存在している数多の”自称ステーブルコイン”は、通貨建資産なのでしょうか。
例えば以下のようなものが存在しています。

  • 暗号資産を裏付けにして、1コイン=1法定通貨での交換を目指しているもの
  • 金を裏付けにして、1コイン=1法定通貨での交換を目指しているもの
  • 不動産を裏付けにして、1コイン=1法定通貨での交換を目指しているもの
  • 債券を裏付けにして、1コイン=1法定通貨での交換を目指しているもの
  • 発行会社の信用を裏付けにして、1コイン=1法定通貨での交換を目指しているもの
  • 需給調整により、1コイン=1法定通貨での交換を目指しているもの

これらはすべて、通貨建資産ではないと考えられます。
”目指しているだけ”です。
暗号資産、金、不動産、債券、発行会社の信用、需給調整アルゴリズム、といった”裏付けになるもの”の変調により、法定通貨と常に等価で交換できるとは限りません。(前述のとおり、実際に大概デペッグしています)

実は、日本の法律もこの考え方と整合的です。
2023年6月施行の改正資金決済法において、ステーブルコインは「電子決済手段」という名前が与えられ、定義や規制が明確になっていますが、
「通貨建資産であること」は「電子決済手段の要件の1つ」になっています。

つまり言い換えると、
”実態はステーブルじゃない自称ステーブルコイン”は、「ステーブルコイン(電子決済手段)」ではなく、(多くの場合)「暗号資産」です。
端的にいえば、DAIは暗号資産と考えられます。

「誰でもアクセス&どこでも送れる」≒不特定者間使用/売買

「誰でもアクセスできる」「どこにでも送れる」
これを法律的に表現すると、

”…対価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる”

改正資金決済法2条5項

ともいえ、長いので以後「不特定者間使用/売買」と表現します。

実は、日本の法律はこの考え方とも整合的です。
「不特定者間使用/売買」は「電子決済手段の要件の1つ」になっています。

さて、
2023年10月現在、日本には多くの”デジタルマネー”や”デジタルマネー開発プロジェクト”が存在していますが、「不特定者間使用/売買」は可能なのでしょうか。
例えば以下のようなデジタルマネーやプロジェクトが存在しています。

  • 交通系電子マネー
  • ●●Pay
  • 店頭で振込指図を行う銀行預金
  • インターネットバンキングシステムを介して振込指図を行う銀行預金
  • 更新系APIを介して振込指図を行う銀行預金
  • パーミッションドブロックチェーン(プライベート/コンソーシアムチェーン)を介して権利の移転を行う銀行預金(又は資金移動業者のデジタルマネー)
  • パーミッションレスブロックチェーン(パブリックチェーン)を介するが、本人確認(KYC)済みのアドレスにのみ権利の移転を行う銀行預金(又は資金移動業者のデジタルマネー)

これらはすべて、「不特定者間使用/売買」はできないと考えられます。
最後の2点は、ブロックチェーンを使っているので”ステーブルコインっぽい”ため、特に注意が必要です。

「パーミッションド(=許可型)ブロックチェーン」を使っている場合、その名のとおりアクセスできるのは「許可された特定の参加者」に限定されているため、「不特定者」はアクセスできません

「パーミッションレス(=許可不要)ブロックチェーン」を使っている場合でも、本人確認(KYC)済みのアドレスにしか権利の移転をできない場合「不特定者」に送れるわけではありません

これらは、ブロックチェーンを使っているといっても、「アクセス可能者/送金可能者が特定された者」である以上、インターネットバンキングや更新系APIとの違いは「使っている技術」であり、少なくとも「利用者にとってのアクセス性や移転の柔軟性」において本質的な違いは僅少、と考えています。

また、ビジネス上忘れてはいけないのは、「不特定者間使用/売買」の要件を満たさない銀行預金/資金移動業者のデジタルマネーの場合、
基本的に「ステーブルコイン(電子決済手段)」ではない、という点です。

”…銀行等又は資金移動業者が発行するデジタルマネー(…)であって、その発行者が犯罪による収益の移転防止に関する法律(…)に基づく取引時確認をした者にのみ移転を可能とする技術的措置が講じられており、かつ、移転の都度発行者の承諾その他の関与が必要となるものは、基本的には②(=不特定者間使用/売買,齊藤補記)の要件を満たさず、電子決済手段に該当しないことに留意する”

電子決済手段等事務ガイドラインⅠ-1-1(注1)

つまりまとめると、
”「不特定者間使用/売買」ができない銀行預金型の自称ステーブルコイン”は、「ステーブルコイン(電子決済手段)」ではなく、(多くの場合)「ただの銀行預金」です。

”理想のステーブルコイン”=日本法上のステーブルコイン(電子決済手段)という話

更に詳しい情報の続きは、noteの公開記事をご覧ください(↓)

https://note.com/tatsu_s123/n/n1f7f6df36752


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