【速攻解説】「ベンチャーキャピタル×デジタル証券/ST化」の要諦と「トークン化アセット拡張」に必要な一手とは?
こんにちは、プログラマブルな信頼を共創したい、Progmat(プログマ)の齊藤です。
2024年5月2日に、プレスリリースを発信しました。
タイトルは、「「スタートアップ投資促進WG」における「中間整理」の公表と「信託会計ルールWG」の新設について」です。
News|【Progmat】デジタルアセットプラットフォームニュースリリースやトピックス、Progmatについて掲載された各種メディア記事さまざまな情報をご紹介します。progmat.co.jp
昨日の日経電子版でも報道されていた取り組みです。
VCデジタル証券発行へルール作り、三菱UFJ信託銀など – 日本経済新聞ベンチャーキャピタル(VC)ファンドを裏付け資産とするデジタル証券の発行に向け、三菱UFJ信託銀行やみずほ信託銀行などで構www.nikkei.com
プレスリリース等を実施したイベント週では、
情報解禁後いち早く正確に、背景と内容についてこちらのnoteで解説しています。
ということで、通算22回目の本記事のテーマは、
「【速攻解説】「ベンチャーキャピタル×デジタル証券/ST化」の要諦と「トークン化アセット拡張」に必要な一手とは?」です。
目次
- 「中間整理」公表に至る経緯とは?
- 「ベンチャーキャピタル×デジタル証券化」の取組意義や商品性は?
- 「ベンチャーキャピタル×デジタル証券化」のスキームとは?
- 「ベンチャーキャピタル×デジタル証券化」の論点とは?
- 規制/投資家保護上の論点
- 想定する取引の流れ/取引参加者
- 「トークン化アセット拡張」に必要な一手とは?
「中間整理」公表に至る経緯とは?
”ベンチャーキャピタル(以下VC)×デジタル証券化”の背景として、国が推進中の「スタートアップ支援策」の流れ/全体像や、「スタートアップ投資促進ワーキング・グループ(WG)」発足時の想定論点や狙いについて、昨年12月に解説していますので、適宜ご参照ください。
https://note.com/embed/notes/n3c65da1d211f
WGを主催する「デジタルアセット共創コンソーシアム(DCC)」の事務局は、Progmat(Progmat, Inc.)が務めています。
Progmatでは、「幅広い個人の方が保有可能なアセットの多様化」を目的に様々なアクションを仕掛けていますが、本WGは「未上場株式やファンド持分」を個人の方が保有できるようにするために設置したものです。
(不動産、社債、に次ぐトークン化アセットの1つとして)
昨年12月の公表後、更に多くの皆様から参加希望をいただき、参加者を拡大(45組織、約150名)したうえで、3月末まで隔週で議論してきました。
金融庁様や日本STO協会様のほか、関連する各種当局/団体の方々にもご参加いただいたものです。
今回公表した「中間整理」およびこの解説記事は、”VC×デジタル証券化”の案件組成に必要なナレッジを極力端的にまとめて公開し、トークン化対象アセット拡張に向けたアクションを加速させることを目的としています。
「ベンチャーキャピタル×デジタル証券化」の取組意義や商品性は?
まずは、実現の推進力に繋がる「なぜやるか(関係エンティティにとっての動機)」を見ていきます。
この商品において”ドライバーズシート(推進役となるポジション)”には誰が必要でしょうか?
それは、デジタル証券/ST化により資金を調達する、ベンチャーキャピタルファンド(以下VCファンド)です。
金融機関や事業会社等をリミテッドパートナー(有限責任組合員、以下LP)として出資を募り、組成したファンドをジェネラルパートナー(無限責任組合員、以下GP)として管理運営のうえ、スタートアップ企業等へ成長資金を供給しています。
“VC×デジタル証券化”商品(以下、「VCファンドST」と呼びます)では、後述するスキームを介して、個人投資家等の広範な投資家が、新たにVCファンドに資金を供給しやすくなるため、VCファンドにとっては資金調達の安定化に繋がります。
スタートアップ企業にとっては、資金供給主体はあくまでVCファンドであり、特定の個人が直接株主になるわけではないため、個人株主対応等の煩雑さを生じさせることなくシンプルに資金調達が円滑になる蓋然性が高まります。
デジタル証券化における既存プレーヤーである「アセットマネジメント会社」「信託銀行」「証券会社」「流通市場(PTS、私設取引システム)」にとっては、不動産/社債に次ぐ新たなアセットタイプとしてビジネス拡大の機会となります。(VCファンドだけでなく、同様のスキームを用いたPEファンド等のファンド持分ST化への横展開も容易になります)
資金の出し手となる個人投資家等にとっては、資産形成の新たな選択肢となります。未上場企業へ直接的/間接的にアクセスする他商品と比較した、「VCファンドST」の特徴を次の図表にまとめています。
個人投資家×未上場企業の金融商品の1つとして、「株式投資型クラウドファンディング(以下、株式投資型クラファン)」があります。
個人投資家が、自身の投資判断で特定の未上場企業の株式を購入し、直接株主になれる点が最大の特徴といえます。
現状は各種制約があり、投資家にとっては投資上限額が「50万円/年間」、調達する未上場企業にとっては調達金額上限が「1億円/年間」となっていますが、国の「スタートアップ支援」の流れを受けてそれぞれ規制緩和の議論が進んでいます。
規制緩和を受けてもなお、その性質上不変と思われるのが、「投資家にとっての流動性/換金性の低さ(非上場)」と「未上場企業にとっての株主対応負荷の高さ(小口個人株主対応必須)」です。
ほぼ真逆のコンセプトの商品として、「上場ベンチャーファンド」があります。
VCファンドが投資信託として上場することで、「未上場企業にとっての株主対応負荷の相対的な低さ(株主はあくまでファンドであり、小口個人株主不在)」をそのままに、「投資家にとっての流動性/換金性の高さ(上場)」を備えたものですが、法定開示に加えて「東証上場規程」等が求める開示要件が厳しく、24年4月末時点で当該ファンドは存在していません。
両者の間の商品性を持つ新たな枠組みの1つが、「公募非上場株投資信託」です。これは、投資信託協会の自主ルール改正等を受けて新たに商品組成が期待されている類型で、投資信託の組入資産として一定割合(15%が当面の上限)の非上場株(未上場企業の株式を含む)の組み込みが可能となります。
上述の「上場ベンチャーファンド」との違いは、当該投資信託は非上場であり、東証等で随時売買できるわけではないため、「投資家にとっての流動性/換金性」は上場商品ほどではないという点です。既存の多くの投資信託と同様、換金したい投資家は市場売買ではなく、解約請求を実施することになります。
そのため、ファンドの管理運営者としては、運用資産のうち一定額を解約に備えた高流動性のアセット(金銭や上場株式等)で保有しておく必要があり、前述の投資信託協会自主ルール(15%上限)と相俟って、運用資産総額のうち非上場株式に対するエクスポージャーは限定的ともいえます。
個人投資家にとっては、少なくとも「株式投資型クラファン」と比べると、未上場企業への投資の手触り感が相対的に小さく感じるかもしれません。
非上場株投資信託、日本でも可能に スタートアップは資金調達しやすく – 日本経済新聞【この記事のポイント】・個人は成長ステージで投資機会・上場予備軍は資金調達がしやすく・個人マネーで資産運用立国目指す誰でもwww.nikkei.com
「VCファンドST」は、「公募非上場株投資信託」よりも更に未上場企業への投資の手触り感を高めた商品性といえます。
「公募非上場株投資信託」の組入資産は「金銭+上場株式+非上場株式(上限15%)」という構成でしたが、「VCファンドST」の組入資産は「VCファンドのLP出資持分+金銭(後述)」です。「VCファンド」における非上場株式の組入上限や、「VCファンドST(投資信託を用いないスキーム)」におけるLP出資持分の組入上限等は特段ありません。
また、既存のデジタル証券/STと同様、非上場ながら一定の流動性を担保(取扱証券会社による買取、証券会社内の投資家間マッチング、PTSを介した異なる証券会社の顧客間マッチング)することが可能なため、必ずしも解約に備えて資金を寝かせておく必要はありません。
「株式投資型クラファン」と異なり、スタートアップ企業への投資判断は投資家自身ではなくVCファンドの運用者(GP)となりますが、個人投資家にとってはむしろ実績のあるVCファンドを介して投資を行う方が、同じ未上場企業への投資商品でも挑戦しやすいかもしれません。
ということで、「VCファンドST」は関係するエンティティ(特にVCファンド)にとって新たに取り組む意義があり、個人投資家にとっては近接商品と比較してもユニークな特徴を有した商品として、資産形成の新たな選択肢になるものと考えています。
「ベンチャーキャピタル×デジタル証券化」のスキームとは?
そんな「VCファンドST」ですが、新商品として組成するためにどのようなスキームを用いるのかを見ていきます。
更に詳しい情報の続きは、noteの公開記事をご覧ください(↓)