海外のステーブルコインって、日本で取り扱えないの?(できる。でも工夫も要る。)
こんにちは、プログラマブルな信頼を共創したい、Progmat(プログマ)の齊藤です。
第4回記事では「Progmat×ステーブルコイン」を解説し、よくある”誤解”に対する”正解はこれ”をくわしく解説しました。
https://note.com/embed/notes/n406e5cfa9f1c
超要約すると、
- 「Progmat」は独自のブロックチェーンの名称ではありません。
- 既存のブロックチェーンを、用途に応じて使い分けるシステムです。
- なので、”独自のブロックチェーン”を提供するプロジェクトとは、原理的に競合せず、棲み分け/共創可能です。
- 「Progmat Coin」は独自のステーブルコイン銘柄名称ではありません。
- Progmatシステムシリーズのうち、ステーブルコインを発行/管理するためのシステム名称が「Progmat Coin」です。
- なので、”独自のステーブルコイン(JPY●、USD●、●●コイン等)”を発行するプロジェクトとは、原理的に競合せず、むしろ顧客/パートナーです。
- 「Progmat Coin」システムは、必ずしもプライベート/コンソーシアムチェーン(直接的にいえばCorda)を利用するわけではありません。
- 利用ケースに合わせて複数チェーンを使い分ける前提で、パーミッションレスチェーンの中で対応する優先順位は、顧客ニーズに即して決定します。
- 現時点での最優先チェーンは、パーミッションレスチェーンのEthereum(まずはL1)です。
でした。
そんな中、CoinDesk(米)に取材いただき、「海外から見て、日本がいかにステーブルコイン規制をリードしているか」についての記事が公開されました。(日本語版もあります)
How Japan Is Leading the Race to Regulate StablecoinsJapan’s new law tries to address one of the biggest fears abowww.coindesk.com
ステーブルコイン規制をリードする日本──米CoinDesk記者が見る現状と大きな課題 | CoinDesk JAPAN(コインデスク・ジャパン)主要国の多くはまだ、ステーブルコイン規制を整備していない。例外は日本。この分野で先駆的なポジションを占めている。 日本ではwww.coindeskjapan.com
海外では、既に時価総額18兆円超の”既存ステーブルコイン”が存在します。
(2023年10月時点)
明確な規制がない中でも、”グレーゾーンはGo”の海外(=判例法主義、ポイントは第2回記事をご参照)では発行が可能で、クリプト領域の取引等で利用されている実態があります。
https://note.com/embed/notes/n810efe3f421b
日本では世界に先んじてステーブルコイン法制が施行され、「日本産ステーブルコイン」を海外に移転できるようになったわけですが、
逆に既に存在している「海外産ステーブルコイン」はそのまま国内に持ち込めるのでしょうか?
ということで、第5回目の本記事のテーマは、
「海外のステーブルコインって、日本で取り扱えないの?」です。
答えは、「できる。でも工夫も要る。」
目次
- 前提、何が「リスク」か?
- 方法①:そのまま持ち込む代わりに、仲介者が犠牲になる(さらに、利用シーンも選ぶ)
- 持ち込める対象
- 自己勘定(自分のお金)で同額の法定通貨を確保
- さらに、送金上限額100万円も課される
- 方法②:アンホステッドウォレットでの管理に限定する(実質、かなり人と利用シーンを選ぶ)
- 方法③:信託スキームを用いて「海外ブランドコイン」をつくる
- 日本法人をつくって「銀行業」か「信託業」をとる?
- 信託スキームにおける「信託委託者」になり、「既発海外産コインと同ブランド」のコインを発行する
- 課題はある?
前提、何が「リスク」か?
規制の目的はさまざまですが、特に金融の世界では過去のさまざまな不正/事故を踏まえた「利用者保護」を目的としていることが多いです。
「海外産ステーブルコイン」を利用する方々を保護するうえで、何が「特有のリスク」でしょうか?
それは「海外発行体の信用リスク」です。
「日本産ステーブルコイン」は、発行体が「銀行」「資金移動業者」「信託」に限定され、発行体としての規制を受ける点はこれまでの記事で解説してきたとおりです。
「海外産ステーブルコイン」は、発行体が日本の法域外の外国籍事業者のため、国内当局は直接規制することができません。
2022年に発生した「FTXショック」のような事態が絶対に発生しないとは言い切れず、日本の利用者にとって「ある日突然価値がなくなる”ステーブルじゃないコイン”」になってしまうリスクがある、ということです。
方法①:そのまま持ち込む代わりに、仲介者が犠牲になる(さらに、利用シーンも選ぶ)
そこで、今回の改正資金決済法で課された「規制」が次の2点です。
- 大前提、海外のなんらかの規制に服している「海外産ステーブルコイン」でなければ、持ち込めない
- そのうえで、「海外産ステーブルコイン」を持ち込んだ仲介者(※)が、顧客預りステーブルコインを全額信託保全すると共に、更に預りステーブルコイン残高と同額の法定通貨を、自己勘定(自分のお金)で常に確保しなければならない
※暗号資産における「暗号資産交換業者」のポジションで、ステーブルコイン(電子決済手段)においては「電子決済手段等取引業者」
持ち込める対象
まず1点目について、個別銘柄名の言及はしませんが、既存の「海外産ステーブルコイン」においても、既存の関連規制に服しているものと、服していないものが存在します。
前者については日本に持ち込むことも可能ですが、後者は認められない、ということです。
ちなみにこのような日本の規制の考え方に倣って、海外でも同様の規制が整備されていくと、「どこかしらの国の規制に則ったコイン」は世界中を正面から自由に流通しやすくなりますが、「規制に服していないコイン」はいずれの法域からもシャットアウトされることになります。
日本発のこのような考え方自体は、海外当局からも一定の賛同の声があるようです。
自己勘定(自分のお金)で同額の法定通貨を確保
次に2点目について、「顧客預りステーブルコインを全額信託保全」すること自体は、海外産か日本産かを問わず適用される内容で、要は「顧客資産は分別管理せよ」ということで、金融商品においてはある意味当たり前の話です。
特有の要素は後段の「預りステーブルコイン残高と同額の法定通貨を、自己勘定(自分のお金)で常に確保」する、という内容です。
海外発行体が破綻した場合等、「1億ドル分のコイン」が「ほぼ0ドルのゴミデータ」になる可能性があります。
こうした場合に、顧客から直接預かっている立場である仲介者が「預かっていた1億ドル分」を顧客に返還できるように、「預かっているコイン残高と同額の資金をしっかり確保しておけ」ということです。
仲介者からすると、本来様々な用途に利活用できるはずの資金が根雪としてロックされてしまい、会社としての資金効率は著しく悪化します。
したがって、
ステーブルコイン利用者にとっては何も悪い点はないのですが、実際問題、ここまでの犠牲を払って「海外産ステーブルコイン」をそのまま持ち込みたい仲介者がだれなのか?という話になります。
さらに、送金上限額100万円も課される
仮に、そのような仲介者がいるとしましょう。
「海外産ステーブルコイン」を直接持ち込む場合、「銀行型」でも「信託型」でもないとすると、「資金移動型(2種)」の仕組みで扱うことが想定されます。
「資金移動型(2種)」の場合、前回記事でも触れたとおり、1回あたりの送金上限額は100万円です。
これは正直、利用シーンはほぼ「個人/小口取引」に限定されるといわざるを得ません。
方法②:アンホステッドウォレットでの管理に限定する(実質、かなり人と利用シーンを選ぶ)
正面から取り組む方法①以外に、うまい方策はないのでしょうか?
ここで、先ほど述べた次の文言に着目します。
”預りステーブルコイン残高と同額の法定通貨を、自己勘定(自分のお金)で常に確保”
自己勘定で資金を確保する対象の残高は、「顧客から預かっている」コイン分のみです。
ということは、顧客から1円も預らなければ(”宵越しの顧客コインをもたない”)、資金を確保する必要もない、という整理も可能かもしれません。
※為念、齊藤は弁護士ではないので、法律事務所のプロフェッショナルの先生方にご相談ください
これはつまり、
仲介者として「交換機能」だけ提供することに徹し、「カストディアルウォレット(預り)」としての機能は提供しない、というモデルといえます。
このモデルにおける前提は、
各利用者は仲介者から購入した「海外産ステーブルコイン」を、購入後そのまま利用者自身のウォレット(アンホステッドウォレット)で受領して管理できなければならない、ということを意味します。
方法①でも触れた「送金上限額100万円」の制限自体はそのままのため、
この方法の場合の結論として、
- 利用者は「アンホステッドウォレット」を使いこなせる人に限定される
- 利用シーンはほぼ「個人/小口取引」に限定される
といえます。
逆に言えば、
だれでも使える素敵なウォレットが存在し、個人間の少額取引で利用する分には、この方法でも必要十分ということもできます。
方法③:信託スキームを用いて「海外ブランドコイン」をつくる
更に詳しい情報の続きは、noteの公開記事をご覧ください(↓)