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不動産STOを前提とした受益証券発行信託の会計・税務上の取扱い

1. はじめに

こんにちは、SRC運営事務局です。

前回の記事では、弊社が提供する「Progmat」システムの根幹となるブロックチェーン基盤について、その類型、代表的なもの、「Progmat」で採用している基盤とその選定理由等についてまとめました。

「①取引情報のプライバシー確保が容易」、「②スケーラビリティの確保が容易」、「③スマートコントラクトの柔軟な実装が可能」、「④スマートコントラクトの追加・修正時の負荷が低い」という4点を主なポイントとし、2019年9月時点で、「Progmat」における基盤として先ずは「Corda」を採用したことを説明しました。

今回の記事では、Progmatスキームでの活用を想定している受益証券発行信託について、その会計・税務上の取扱いを説明します。Progmatスキームによるセキュリティトークン(以下、ST)は受益証券発行信託の受益権を表象するものであり、STOに際し当該信託の会計・税務上の取扱いに則したファンド運営を行う必要があります。ProgmatスキームによるSTOにおいて、実務面でどのような業務・手続きを行う必要があるのか、外部の会計事務所や監査法人にどのような業務を依頼する必要があるのかといった点を検討するために必要な情報ですので、よろしければご参照ください。また、受益証券発行信託を用いたスキームについては過去の記事(Progmat想定スキーム#1:受益証券発行信託を用いたデジタル証券化の法的建付けProgmat想定スキーム#4:受益証券発行信託を用いる際の実務課題と解決策)でも説明していますので、併せてご参照ください。

2. 会計上の取扱い

(1)開示義務

受益証券発行信託は、信託法第185条に規定されており、「信託行為において受益権を表示する証券を発行する旨の定めがある信託」のことを指します。この信託に基づく受益権は金融商品取引法第2条第1項第14号に規定されており、いわゆる第一項有価証券となります。ProgmatスキームでのSTOは50人以上を対象とする公簿の有価証券の発行を想定しているため、発行に先駆けて、発行者の営業および経理の状況その他の事業の内容に関する重要事項や、有価証券の発行条件等を記載した有価証券届出書を財務局に提出する必要があり、また、決算期毎に有価証券報告書を提出するために、会計監査の手続きを行うことになります。

受益証券発行信託は、海外企業の株式や債券等を裏付資産とした受益証券を国内で発行・上場させる仕組みであるJDRや、貴金属の上場投資信託においてその発行実績がありますが、現在Progmatスキームで活用を想定している不動産やその信託受益権については日本国内で活用された実績がありません。

例えばJ-REIT等、投資法人の投資口の発行であれば実績は豊富ですが、受益証券発行信託において信託財産を不動産やその信託受益権とするケースについては、弁護士、監査法人、会計事務所等の協力を得ながら具体的な実務内容を構築し、実務慣行を成熟させていく必要があります。それでは、このような検討の前提となる、会計処理の実務指針について確認していきましょう。

(2)会計処理の実務指針

平成18年の信託法改正を受け、平成19年に実務対応報告第23号「信託の会計処理に関する実務上の取扱い」が企業会計基準委員会から公表されています。この中のQ8(受託者の会計処理)において、「受益者が多数の信託である場合は、利害関係者に対する財務報告をより重視する必要性があると考えられるため、信託会計は株式会社等の会計に準じて行う」という内容が記載されており、加えて、「受託者が財産管理のための信託の会計を行っていたとしても、受益者会計は一般に公正妥当と認められる企業会計基準に基づく」と付言されています。このことから、不動産管理処分信託による信託受益権を、受益証券発行信託の信託財産として設定し受益権を発行するProgmatスキームにおいては、不動産管理処分信託と受益証券発行信託を一体と看做して会計処理を行い、かつ企業会計基準の適用が求められることになります。以下、上記2つの信託の関係性から、不動産管理処分信託を川上信託、受益証券発行信託を川下信託と記載します。

① 川上信託と川下信託の会計

川上信託と川下信託のそれぞれの会計の建付けについて整理します。川上信託の会計の目的は受託者の信託勘定の金銭等資産の動きを管理することにあります。このことから会計処理の方法は、収益と費用を現金の受け渡しの時点で認識する現金主義としており、長期的に管理される資産に関しては、実際に支払いがなされるわけではないことから、耐用年数に応じた減価償却や時価への評価替え等は行われず、取得原価により評価されます。

一方で、川下信託の会計は、受益者等の利害関係者への情報開示と税務処理を目的としています。会計処理の方法は、現金の収入や支出に関係なく、取引の発生時点で収益または費用を計上する発生主義とし、川上信託の会計と異なり、長期的に管理される資産の減価償却を行います。このように川上信託と川下信託の会計には実務上の相違点があることから、会計処理に工夫が必要になります。

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② 企業会計基準

前述の通り、企業会計審議会:実務対応報告23号「信託の会計処理に関する実務上の取扱い」において、川下信託の会計は「一般に公正妥当と認められる企業会計基準に基づく」という旨が記載されています。また、川下信託の会計を企業会計基準に則った形で実施するための指針として、実務対応報告と同じく平成19年に、信託協会から「受益証券発行信託計算規則」が公表されています。同規則では、第3条において、「同規則の適用においては一般に公正妥当と認められる企業会計の基準その他の企業会計の慣行をしん酌しなければならない」と規定され、川下信託について企業会計基準に則った会計処理を実施するための具体的な会計処理の内容が記載されています。対象が株式会社等ではなく信託であることから、勘定科目等に相違点がありますが、基本的に株式会社等の会計と同様の処理を行う内容のものとなっています。

3. 税務上の取扱い

(1)法人税法上の取扱い

川下信託は法人税法第2条第29号の2イ(法人課税信託)に規定する「受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託」に該当し、受託者段階で法人税の課税対象となります。このままではファンド構造の基本的な要件である導管性要件(二重課税の回避)が充足されないことになりますが、この受託者段階での課税は集団投資信託には適用されず、集団投資信託の1つである「特定受益証券発行信託」に該当すれば対象外となります。このため、ファンド運営に際しては川上信託を特定受益証券発行信託とすることが必要となりますが、このためにはいくつかの要件があります。

特定受益証券発行信託に該当するための要件として、「①税務署の承認を受けた法人による引受」、「②各計算期間終了時の未分配利益の元本の総額に対する割合(利益留保割合)が25/1000(法人税法施行令14条の4⑪)を超えない旨の信託行為の定め」、「③各計算期間開始時に、利益留保割合が25/1000を超えていないこと」、「④計算期間が1年を超えないこと」、「⑤受益者が存しない信託に該当したことがないこと」の5点を挙げることができます。

特に留意する必要があるものは、要件②③であり、ファンドに留保可能な利益は会計上の利益の2.5%までであり、これを一度でも超過すると特定受益証券発行信託に該当しないことになります。さらに、この要件を満たすためには、決算日の時点で収益分配・利益留保の方針があらかじめ決定されているという事実が必要です。二重課税を回避する形でSTOを実施したいAMの皆様に於かれましては、決算日以前に、当該方針の決定を行い、受託者に通知するという実務が必要となる点にご留意ください。

(2)所得税法上の取扱い

原則として、特定受益証券発行信託は集団投資信託であり、その配当は受益者にとって配当所得となるため、配当の支払いに際して源泉徴収が必要となります。前述の法人税法上の取扱いで説明の通り、特定受益証券発行信託に該当している限り、受託者段階では課税されず、受益者が受ける収益の分配について所得税または法人税が課税されることとなります。

受益者への配当時には所得税の源泉徴収が必要となりますが、この点について、租税特別措置法第9条の3の2第1項にて、配当が国内における支払いの取扱者(口座管理機関)を通じて交付される場合は配当等の支払い者ではなく、支払いの取扱者が源泉徴収をする旨が規定されています。このことから、特定受益証券発行信託の受益権をSTとして保護預かりする金商業者の皆様に於かれましては、受益者への配当時の源泉徴収に係る実務が必要となる点にご留意ください。

法人税法・所得税法上の取扱いの内容をまとめると、以下の通りです。

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(3)消費税法上の取扱い

消費税法第4条第1項で「資産の譲渡等」に消費税が課税されることとされており、その「資産の譲渡等」は、同法第2条第1項第8号で定義されています。同法施行令第2条第1項第3号で特定受益証券発行信託において委託者が資産を信託した場合も「資産の譲渡等」 とみなされることが規定されていることから、川下信託設定時に、建物分の消費税を川下信託から委託者兼当初受益者に支払うこととなります。

また、集団投資信託においては、信託財産に属する資産および当該信託財産に係る資産等取引については、受託者が信託財産に属する資産を有し、かつ資産等取引を行ったものとして、受託者が納税義務者となります。納税義務者である受託者は年に1回税務申告を行う必要があり、この申告書類は受託者の他事業と合算して、受託者が作成しますが、当該資料作成のための計算はファンド毎に行います。この業務に関連し、ファンド毎の消費税計算等を会計事務所等に委託することが想定されます。

ここで留意する点として、仕入税額控除の取扱いがあります。課税売上に係る消費税額から控除する課税仕入等に係る消費税額は、課税売上割合等により計算されます(ただし課税売上高が5億円以下で課税売上割合が95%以上の場合は課税仕入等に係る消費税額の全額が控除対象)が、不動産の賃貸収入を配当原資として想定する場合、アセットタイプによりこの課税売上割合が異なります。住宅の賃貸借であればその賃料は非課税となりますが、事務所・商業施設・倉庫等の賃料は課税対象となります。この論点は、初年度分の申告において、信託設定時に支払った消費税に係る還付が生じるか、生じる場合はどの程度かといった点に繋がるものであり、不動産を裏付資産としたSTOを実施したい事業者の皆様に於かれましては、このような対応が必要となる点にご留意ください。

4. まとめ

上記の通り、会計上の取扱いとして、ProgmatスキームによるSTOは多数の投資家を対象とした第一項有価証券の公募を想定しており、決算期毎に会計監査の手続きを経て有価証券報告書を提出する必要があることを説明した上で、受託者の信託勘定の経理を目的とした会計処理とは別に、一般に公正妥当と認められる企業会計基準に基づく受益者のための会計処理を行う必要性について触れました。

また、税務上の取扱いとして、導管性要件の充足等を目的に、川下信託は特定受益証券発行信託とする必要があり、これに該当するための要件を提示した上で、課税時点や源泉徴収の実施者等について説明しました。また、各種税法上の取扱いに関連してAMや金商業者の皆様が実務上留意する必要がある点についても一部言及しました。

今回の記事の内容は、これまで発行実績がなかった「不動産信託受益権を信託財産とする川下信託」の会計・税務に関するものであり、実務慣行はこれから成熟していく段階のため、将来的に本記事に記載されている内容から変更・調整される可能性があることをお含みおきいただけますと幸甚です。

上記のようなSTO実行のための会計・税務課題への対応含め、今後も情報の整理、調査を進め、皆さまへの情報還元を継続いたします。個別のご質問やご相談事項がございましたら、共同検討をはじめとしたさまざまな枠組みがありますので、SRC事務局までお問合せください。

引き続き、SRC及びProgmatをよろしくお願いいたします。

ご留意事項

  • 本稿に掲載の情報は執筆時点のものです。また、本稿は各種の信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性・完全性について株式会社Progmatが保証するものではありません。
  • 本稿に掲載の情報を利用したことにより発生するいかなる費用または損害等について、株式会社Progmatは一切責任を負いません。

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