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セカンダリ・DLT拡張WGの検討結果について

1. はじめに

こんにちは、SRC運営事務局です。

前回の記事では、「Progmat Coin」の提供と「デジタルアセット共創コンソーシアム(DCC)」への改組についてと題しまして、2月9日のプレスリリースとDCCの今後の取り組みについて解説しました。

Progmat Coinに関しましては、今後「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」で議論されている「発行者規制」「仲介者規制」等の新法制に準拠した「Progmat Coin」を発行することで、決済事業者間の決済リスクや人的コスト負担を軽減する仕組みを作り出し、社会的意義のある新たなエコシステムを共創することを目指していくことを解説しました。

また、今までSRCの枠組みで検討を進めてきたセキュリティトークン(以下、ST)以外にも、今後はユーティリティトークン(以下、UT)やステーブルコイン(以下、SC)等の取扱いを進める事に伴い、DCCへの改組を決定したことについても解説しました。

今回の記事では、3月23日に弊社プレスリリースにて検討結果の内容を発表しました「セカンダリ・DLT拡張WG(以下、本WG)」について解説します。本WGの検討結果は前回の記事で解説した「Progmat Coin」を用いた資金決済や、今後のセカンダリマーケット整備およびDLT拡張に関する検討を進めるに際しての、前提となる内容となりますので理解を深めて頂けますと幸いです。先日のプレスリリースおよび本WGでの検討結果を纏めた「第2期報告書」についての詳細は、弊社HPの「プレスリリース」をご参照ください。

2. セカンダリ・DLT拡張WGの概要

改めての説明となりますが、弊社の「Progmat」はNode保有又はAPIを介して、様々な発行体・原簿管理者・金商業者・仲介業者・カストディアン等の参加を可能にするオープンな仕組みとなることを想定しています。Progmatは「ST」「SC」「UT」を発行・管理するための独立したネットワーク(NW)で構成され、今後はクロスチェーン(他のBC基盤との連携)技術の実装による、多様なデジタルアセットとの連携を目指して拡張を進めて参ります。

なお、DLTを中核とした金融インフラである「Progmat」は、金融取引のバリューチェーンのDXと新市場創出を志向し、以下の図の通り大きく3つの方向性で拡張中です。

【拡張の方向性】
①投資対象STの多様化②プラットフォームの拡張③市場・決済機能の拡張

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本WGでは、図に示すように、主に「②プラットフォームの拡張」「③市場・決済機能の拡張」について、市場関係者の広範な意見の集約と共創プロセスを経て、ルールメイキングや個別開発PJ移行等の具体化に向けて検討を進めて参りました。

SRCではデジタル証券全体の未解決課題である「セカンダリ市場の不在」と「効率化効果の未実現」の2点に対し、業界横断的なビジョンとロードマップを示し、2023年度より、「大阪デジタルエクスチェンジ」をはじめとしたデジタル証券PTSと「Progmat」の連携によるセカンダリ市場確立と、「Progmat」のDLTオープン化による企業間連携の効率化実現を目標としています。

上記を目指し、関係各社様と検討を行う分科会として、「セカンダリワーキング・グループ」「DLT拡張ワーキング・グループ」(第1期)を2021年1月に設置し、証券会社様や技術提供企業様及び法律事務所様と9ヶ月間に亘り検討を進めて参りました。その後、2021年10月には「デジタル証券PTSに関する提言」「セカンダリWG第1期報告書」「DLT拡張WG第1期報告書」の3つの資料にてWGでの検討結果を取り纏め発表しました。各報告書の詳細については以下のリンク先をご参照ください。

デジタル証券PTSに関する提言
セカンダリWG第1期報告書
DLT拡張WG第1期報告書

以上のように、各WG第1期での検討結果を踏まえて2021年10月には本WG第2期を設置し、関係当局のオブザーブの下、デジタル証券PTS様や証券会社様、ソフトウェア会社様及び法律事務所様等23社と6ヶ月間に亘り検討を進めてまいりました。

本WG第2期では「デジタル証券市場参加者間の連携方法」、「DLTオープン化後のガバナンス・セキュリティ・秘匿化」、「証券バリューチェーン変革の定量効果算定」の3点について検討を進めて参りましたので、その検討結果の内容について解説していきます。

3. セカンダリ・DLT拡張WG(第2期)の検討結果

(1)デジタル証券市場参加者間の連携方法
最初に結論となりますが、デジタル証券市場参加者間の連携方法は「Progmat完結するもの」と「クロスチェーンとなるもの」の2パターンがあり、夫々以下のようなスキームとなる想定です。

①デジタル証券市場のグランドデザイン|Progmat完結
1つ目はデジタル証券市場の取引について、証券決済と資金決済がProgmatの中で完結するパターンです。証券決済は「Progmat ST」で、資金決済は「Progmat Coin」で対応する場合、デジタル証券PTSによるマッチング完了後、各市場参加者様はProgmat用Nodeを介した1本のフローでポストトレードプロセスが完結します。

具体的には、デジタル証券PTS(Exchange Node:EN)からのST出来Tx(STの売買注文マッチング結果に関するトランザクション)をインプットに、カストディアンノード(以下、CN)(売)がST及びSCの移転Txを生成し、ST/SCの取引関係者全員の署名の下、Notary Nodeによる二重消費検証を経て移転が確定するフローとなります。

Progmat完結での取引に関するイメージは以下の図の通りです。

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②デジタル証券市場のグランドデザイン|クロスチェーン

続いて、デジタル証券市場の取引について、証券決済は「ST基盤(3rd Party)」で、資金決済は「Progmat Coin」で対応するパターンです。
「Progmat Coin」はデジタルアセット業界標準の決済インフラを志向しており、「Progmat ST」以外のST基盤であっても連携可能とする想定です。こちらの場合は、デジタル証券PTSによるマッチング完了後、他のST基盤におけるPTS用NodeからST出来Txを回付し、当該Txを受領した金商業者側でST移転Txを回付すると共に、Progmat用Node(Custodian Node:CN)と連携し、CNからSCの移転Txも回付します。

この時、「Progmat Coin」側で、信頼できる第三者機関に依存しないクロスチェーンソリューション(=Relayer:クロスチェーンを実装するための繋ぎの役割)を提供することで、「Progmat ST」以外のST基盤もアトミックなDVP決済が可能となり、各市場参加者はデジタル証券市場における資金決済手段を統一/効率化できるものとなります。

クロスチェーンでの取引に関するイメージは以下の図の通りです。

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以上のように、証券会社、ST原簿管理者、SC原簿管理者、カストディアンに加え、デジタル証券PTSもDLTネットワークに直接参加することで、PTS発信のST出来通知から証券決済・資金決済までが1本のフローで完結する仕組みを構築可能であるということが確認できましたので、4月以降のWGにて、更に具体的な検討を進めて参ります。なお、PTS側の責任分界や、PTS側コストの市場参加者シェア方法は、継続論点として4月以降の検討内容に含めて議論をします。

以上の結論に至るまでのWGでの検討過程の詳細については、「第2期報告書」の#11~#18に記載がございますので、必要に応じてご参照頂けますと幸いです。

(2)DLTオープン化後のガバナンス・セキュリティ・秘匿化

①システム構成
まず初めに、システム構成図を以下に示します。

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前提として、Progmatは「the Corda Network(tCN)」を基にBusiness Network(同一ビジネスを行う企業群ネットワーク)として形成します。図に示すように、Nodeの保持、自社システム組込や周辺機能開発等を行うネットワーク参加者を「Service Developer(以下、Service Dev)」と定義し、「Service Dev」の役割別のProgmat用パッケージ(APIライセンス含む)を用意します。また、各「Service Dev」の提供するAPIを利用する間接的なネットワーク参加者を「API User」と定義します。

上記システム構成図上、4つの縦長オブジェクトが並んでいますが、一番左のService Devは各種の原簿管理・カストディアンあるいはその両方を兼ねる金融機関等のプレイヤーを想定しており、MUTBもその一角(あくまでも一介の参加者)となります。左から2つ目は、Service Devのうち、直接管理型の金商業者様となります。左から3つ目がService Devのうち、デジタル証券PTS様となります。その右がカストディ委託型の金商業者様で、このカストディ委託型の金商業者様はNodeを持たずAPIを参照して利用するのみの参加者となるので、API Userになります。このデジタル証券PTSを挟んだ両者(金商業者様)はPTS様とは専用線(破線)で繋がり、原簿管理者ないしカストディアンとはAPIで繋がったうえで、Service Devの3エンティティについてはDLTでも繋がっています。

②ガバナンス方式|分権的運営(デジタルアセット共創コンソーシアム)
2022年4月に改組する「デジタルアセット共創コンソーシアム」(以下、DCC)を、Progmat5.0 PJ対応(DLTオープン化、PJ詳細は後段で解説します)をトリガーに分権的運営に移行し、Progmat揺籃期のMUTB集中管理体制からガバナンスの在り方を高度化します。

Node運営を担うかNode非保有かで、「Partner Members」か「General Members」という形式に分かれ、更にNode運営を担う「Partner Members」は「Core Developer(以下、Core Dev)」と「Service Dev」に分かれ、責任範囲を明確にしたうえで開発を推進する役割となります。なお、守秘義務を要しない開発提案はオープンに受付可能とし、開発提案の採択等重要な決定はDCC全会員による投票プロセスを経ることを想定しています。

DCCの運営に関するイメージを以下の図に纏めていますので確認ください。

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③ガバナンス方式|開発者の責任/役割分担
前提として、Progmatは「the Corda Network(tCN)」を利用することから、ネットワーク構成管理やNortary Node運用は非営利団体である「Corda Network Foundation(the Foundation)」が行うため、「Core Dev」への集権が不要となります。

「Core Dev」はProgmatの共通仕様/機能やパッケージアプリの開発を推進しますが、Node別の固有機能や顧客向けサービス開発は原則関与しません。「Service Dev」は、各保有Nodeに関連する固有機能の開発や他の参加者向け提供、社内外向けインターフェイスの開発を主体的に推進します。

開発者の責任や役割分担については、以下の図に簡単にまとめていますのでご確認ください。

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④ガバナンス方式|プログラム開発プロセス
プログラム開発はパーミッションレス型DLTにおけるオープン/フラットな開発プロセスに準じ、Progmatの関連コンポーネントに対する開発提案は誰でも可能とし、提案内容一式は常にWeb上で公開される運営を想定しています。

具体的なプログラム開発プロセスは以下の図A~Eに示すような形となります。A(開発提案作成)は一般利用者を含めて誰でもできるものと想定し、次のB(提案採択投票)はDCCに参加頂く皆様で評価/投票する形の想定です。C(検証・承認)では、影響を受ける関係者での合意を図り、D(開発・テスト)の部分で、夫々の責任範囲に準じて開発ないしテストを実施します。E(展開・実装)では開発後のPGMの公開(秘匿性の高い仕様部分は限定共有)や、途中で却下/中断した場合もその旨を公開することを想定しています。

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⑤セキュリティ・秘匿化
流出リスクへの対応としての秘密鍵管理方式について、各Service DevによるHSM(Hardware security Module)実装要否が論点となっておりましたが、Progmatの仕様を踏まえ、実態的に不正移転により投資家の被害に繋がる蓋然性が極めて低いことから、HSM利用は必須としない事で各社様との合意に至りました。

トランザクションデータの秘匿性は、移転先Nodeから、移転元Nodeの過去取引の一部が参照可能であるという点が論点となりましたが、投資家はネットワークに直接参加せず、自Nodeに直接繋がりのない取引情報は共有されない仕様等の前提から、現行仕様で必要十分なプライバシー水準は担保されており、追加対応は要しないという結論に至っております。

DLTオープン化後のガバナンス・セキュリティ・秘匿化という点についての解説は以上となります。ここからは、証券バリューチェーン変革の定量効果算定について解説します。

(3)証券バリューチェーン変革の定量効果算定
本WGではDLTをオープン化し、ポストトレードがワンストップで完結する仕組みになる場合の効果を定量的に算定しました。結論としては以下の図に示すように、オープン化前/既存の法定通貨決済の方式に比して、毎年約1,500百万円(84%)のネット効率化効果(Progmat利用コスト加味後)が想定されます。なお、ここでの試算は将来的なST取扱残高を証券会社1社あたり500億円、証券会社数を15社として、諸条件含めて仮定のうえ行っております。

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上記の通り、DLT連携や「Progmat Coin」とのDVPによってフローが簡便化され、業務委託コストや各種手数料、業務執行に伴う人件費が不要となり、Progmatを利用する上で必要なライセンスフィやAPI利用料のみで運用が可能となる見込みとなっています。なお、各プロセス別の試算詳細は第2期報告書に掲載しておりますので、必要に応じてご参照ください。

4. 2022年4月からのDCCにおける検討

ここまで解説をしてきた本WG第2期での検討内容を前提に、4月からは新たな取組みを開始します。プレスリリースでの発表にもある通り、今回の記事では「Progmat5.0 PJ」および「資金決済WG」について概要をご紹介します。

なお、今後のロードマップは以下の図の通りとなっておりますのでご確認ください。

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(1)Progmat5.0 PJ
第2期報告書にて取り纏めた「DLTオープン化後のガバナンス・セキュリティ・秘匿化」の方針に則り、「Progmat ST」「Progmat Coin」の両ネットワークに各事業者が直接参加するための、大型アップデートの実装を目標とし、これを「Progmat5.0 PJ」としています。「Progmat5.0 PJ」の本格的な開始に先立ち、2022年4月からはまず要件定義の実施に向けた予備検討を会員企業様と共同で実施します。「セカンダリ・DLT拡張WG」に参加いただいていた会員企業様/オブザーバーの皆さま(2021年の公表時点から増加しています)が、そのまま全員参画いただくこととなりました。

なお、上記のロードマップにも示しています通り、「Progmat5.0(DLTオープン化)」は2023年度中の実装を目標として進めて参ります。

(2)資金決済WG
もう1つの新たな取組みとなる「資金決済WG」では、第2期報告書にて取り纏めた「デジタル証券市場参加者間の連携方法」の方針に則り、「Progmat Coin」の活用を前提に、「Progmat内完結の資金決済フロー具体化」及び「クロスチェーン決済具体化」に対応する2つの分科会を設置したうえで、会員企業様との検討を開始します。

資金決済WGでは、「Progmat内RTGS」と「クロスチェーンRTGS」に跨る共通的なTo Doの検討と、「クロスチェーンRTGS」固有のTo Doの検討行う想定で、夫々「Progmat内RTGS」分科会、「クロスチェーンRTGS」分科会として、以下の図の通り別々の検討会を設置し検討を進めて参ります。

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①「Progmat内RTGS」分科会
「Progmat内RTGS」分科会は、①「Progmat内RTGS」分科会②「クロスチェーンRTGS」分科会の共通To Doをスコープとして、「Progmat Coin 1.0(private型でのSC初期構築)」開発へ要件等をインプットすることを目的に設置します。

具体的な検討内容としては、主にSC原簿管理者と金商業者様間を対象に「SC発行(入金)/SC償還(出金)フロー」「発行者/金商業者における法令順守方法」の具体化、金商業者様とデジタル証券PTS間を対象に「PTSにおける取扱情報と管理方法」「PTSの責任分界テントコストシェア方法」の具体化等について、検討を進めていく想定をしています。

②「クロスチェーンRTGS」分科会
「クロスチェーンRTGS」分科会は、「Progmat Coin2.0(オープン化、クロスチェーン対応)」開発開始までに、各種合意形成を完了し、2.0の開発へ要件等をインプットすることを目的に設置します。

具体的な検討内容としては、Progmatおよび他の各種ST基盤とProgmat Coin間のクロスチェーン技術の技術検証や、それに伴い認識する課題への対策方法の具体化、およびクロスチェーン技術の商用化に際してのコストやシェア方法の具体化について検討を進め、クロスチェーン技術商用化方式とスケジュールの合意形成まで図れるようにして参ります。

各分科会の参加者の詳細については、前述のプレスリリース内で発表をしていますのでご参照ください。

5. まとめ

今回の記事では、2021年10月から半年間かけて検討を進めてきた、本WG第2期の概要およびWGでの検討結果について解説しました。また、3月までの検討結果を踏まえた、DCCにおける今後の取組みとして「Progmat5.0 PJ」および「資金決済WG」にて、DLTの拡張やクロスチェーン技術の実装に向けた検討を進めていく点について解説しました。

なお、2022年度にはProgmatの基盤拡張として、まずはAPIオープン化が予定されており、今後も検討を進める各社様との議論は加速していくものと考えておりますので、引き続き各種検討状況について、ご注目頂けますと幸いです。

次回以降も、よりタイムリーに皆様にとって価値のある情報発信ができる記事を掲載して参ります。今後もST発行実績に基づく成果や、各種WGを通じて得られる成果についての情報還元を継続し、皆さまのご検討の一助となればと考えております。個別のご質問やご相談事項がございましたら、共同検討をはじめとしたさまざまな枠組みがありますので、事務局までお問合せください。

引き続き、SRC(DCC)およびProgmatをよろしくお願いいたします。

ご留意事項

  • 本稿に掲載の情報は執筆時点のものです。また、本稿は各種の信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性・完全性について株式会社Progmatが保証するものではありません。
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